頭の外と中の話

野原こみち|2021年10月17日

ひとりで口をつぐんで、日がな一日仕事をしていることが多い私は、頭の中で色々なことを考えて気がつくとオーバーヒート寸前状態になっていることが時々あります。適度に息抜きするということが、いつまで経ってもうまくできません。
脳内がオーバーヒート状態にあるときは、頭の外側も変な感じがします。
頭皮の下に薄いゴツゴツした岩でも入っているかのような感じで、ぼんやり重くて痛いのです。
先日そんな状態の頭を抱えながら、美容院に行きました。
内側がオーバーヒート寸前なら、しばらくご無沙汰していたせいか、外側もボサボサしていてお世辞にも整っているとは言えません。

もう15年くらいお世話になっている美容師さんには、だいたい毎回「お任せします」と私の髪のスタイリングの一切を委ねています。
若い頃は、憧れの俳優さんやら素敵なミュージシャンの髪型に似せてくださいとか、無理なお願いをしていたこともありました。しかしある時、自分の頭だけれど私自身は髪の毛については素人なのだから、プロに全部お任せするのが一番良いのかもしれないと突然思い至ったのでした。それからずっとお任せしているという状態です。そして、いつも心から満足する髪型にしていただいています。
もちろん、私の信頼する美容師さんがきちんとした技術の持ち主であるということもあります。しかし、それだけではなく、重要なのは15年にも渡る期間、数ヶ月に一度、同じ時間を過ごして、その時々で楽しく会話をしてきているということが重要なのではないかとも思います。私に関してだけ言えば、ただ鏡の前で他愛もない話をしていただけだからなんの苦労もないけれど、その間、美容師さんの方はというと、私の話を聞きながらも、頭の骨格の形をとらえたり、つむじの位置を把握したり、癖毛がどちらを向きやすいのか確認したり、それはそれは仔細に渡り、プロのお仕事をしてくれていたはずなのです。好きな映画や本などの話から、わたしがどんな髪型を好むかなどということも、もちろん推測してくださっていたのだと思います。長い時間をかけて、私の頭を向き合ってくれていた人なのだからこそ、私の頭にベストな髪型を作ってくれるのでしょう。
このたびも、私にぴったりと合う髪型にしていただきました。
そして、シャンプーのときに丁寧にマッサージしていただいたおかげか、頭の重さは美容室を出る頃にはすっかりなくなっていました。
外側が整うと内側も整うようで、迷っていたあれこれも不思議とスムーズに考えられるようになりました。

人様の力をお借りして、外側を整えていただくということは、きっと目に見える以上の良い効能があります。
私の姿をつくるのは私だけではなく、縁あって知り合ったその道のプロフェッショナルな方々のお力添えの賜物です。
その力が、新しくなった自分の姿を見て少しこそばゆくワクワクするような瞬間を贈ってくれます。
限りある人生の時間の中で自由に生き生きと仕事したり遊んだりできるように、自分の外側も内側も整えていくことを怠ってはいけないな、と思いながら帰路につきました。

writer ライター

野原こみち

野原こみち

熱しやすく冷めやすく、興味の対象が移ろい易い性格ですが、小さな頃から本だけはずっと手放せません。古本屋は、多くのお店を巡るよりも、贔屓のお店に徹底的に通いつめる派。新刊を扱うお店も同じく。図書館は居心地重視。最近は南米の文学作品、幻想小説を偏愛気味です。
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野原こみち
熱しやすく冷めやすく、興味の対象が移ろい易い性格ですが、小さな頃から本だけはずっと手放せません。古本屋は、多くのお店を巡るよりも、贔屓のお店に徹底的に通いつめる派。新刊を扱うお店も同じく。図書館は居心地重視。最近は南米の文学作品、幻想小説を偏愛気味です。
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