わたしの家のキッチンには東側に窓があり、窓辺のちょっとしたスペースには、手のひらサイズの多肉植物が並んでいます。ちょうどいいグリーンはないかと探していたところ、100円ショップに売っている白くて小さい鉢と水受けが、その狭いスペースの幅ピッタリだったので、今度はその鉢に合う植物を探すと、こちらも同じお店で見つけました。
植物の知識に疎く、覚えも悪いわたしは、買ったときについていたプレートにちゃんと名前が書いてあったのにもかかわらず、植えたあとは名前も忘れてしまいました。
その植物たちが家にやってきたのは、だいたい3年ほど前のこと。
中には1年ほどで枯れてしまったものもありましたが、コロコロとした葉っぱをぐんぐん伸ばして、今も元気にしているのもいます。それだけではなく、切り戻しした葉っぱを土にさしておいたら、また根がついて、株になったものもあります。
植物のお世話があまり上手ではないわたしのような人間の元でも、ちゃんとたくましく育ってくれるこの植物は、健気ですごいなあとたまに水をあげながら思います。
この本は、サボテンが好きで好きでたまらない作者が、古今東西あらゆる視点からサボテンに関する雑学や薀蓄を詰め込んだ、サボテンマニア、多肉植物好きな人には垂涎ものの一冊です。
今は、様々な種類の多肉植物が、街の花屋さんで売られるようになりましたが、この本が刊行された昭和49年頃は、多肉植物と言われてピンとくる人はけして多くなかったはず。まだわたしも産まれる前の時代なので、実際のところはあまりわかりませんが、手軽に購入できるサボテンの種類も少なかったのではないかと思います。
ところが、本の中では珍しいサボテンの一種を外国から取り寄せて育ててみようとして失敗したり、自分以上にサボテンに詳しい収集家の方と交流したり、サボテンに対し見事なまでに愛を注いでいることがわかります。
生き物が生き延びるために絶対に必要な水分が、圧倒的に少ない砂漠という厄介な土地で、この不思議な植物は、静かに特殊な進化を成し遂げてきていました。
少し本文から引用します。
ーもっとも、かなりの種類の可憐な植物が、人間の手を借りないで、緑地化の第一線に立って、自力で砂漠とたたかっているというような場合もある。これらの植物がどういう仕組みで、勇ましく砂漠の暴挙とたたかって、領土をまもり、しばしばソレを拡げてさえいるかー
過酷な地域で命をつなげてきた植物の戦いの記録とでもいいましょうか。
植物のお話であるのに、読んでいて、壮絶なドラマを目の当たりにしているような気持ちにすらなりました。
わたしはこの本を読んでから、サボテンを尊敬の眼差しで見ています。
立派な植物なんですよ、サボテンってやつは。
(文:野原こみち)