石井桃子さんの本は、子供の頃から気づかないうちに何度も手に取ってきました。
児童文学作家であると同時に、翻訳家でもある石井さんは、
「ノンちゃん雲に乗る」「クマのプーさん」「ちいさいおうち」など、
誰もが知っているような絵本を手がけています。
この「においのカゴ」は、生涯こどもの本とともに生きた石井さんの、
1950~60年代に発表された童話や、少女小説の短編集です。
1950~60年代というと、ちょうどわたしの親がこどもの頃の年代なのですが、
その頃を舞台として書かれているので童話の中は、当たり前ですが、今とはぜんぜんちがいます。
こどもたちは、基本的に家の働き手として、手伝いや仕事をこなし、
その間にきょうだいたちの面倒をみたりしながらあそんでいます。
まだ、戦後の色も濃く、ほとんどの家庭は生活が苦しくて、
親やおじいさんおばあさんは仕事に一生懸命。
そんな中でも、こどもたちの目から見た世界は、みずみずしく、煌めいていて、おもしろい。
こどもがいるので、児童文学に触れることも多いのですが、
戦後の頃を背景とした児童文学にはあまり触れる機会がなかったので、とても新鮮な気持ちでした。
また、後半にある少女小説も、上品で清楚な言葉遣いと、
少女ならではの情感あふれる雰囲気があり、読み応えがありました。
児童文学なので、文体はとても読みやすいので、難しい本を読んだあいまなどに、ぜひいかがでしょう。