みなさんは伝記小説といえば何を思い出しますか?
わたしは、小学校の図書室の片隅に、
様々な偉人の名前の背表紙がずらりと並んでいる光景を思い出します。
国語の作文のお題が「尊敬する人」だったときに、その棚からてきとうな有名人の人の伝記を手にとったような…。
そんな曖昧な記憶が、頭の隅からようやっと、よびおこされるくらいのものでしたが…。
このエドウィン・マルハウスはそんな伝記という形をとった小説です。
ただし、世界中の多くの人がすでに知っているような、偉人の記録ではなく、
いわば、“子どもが書いた子どもの伝記”なのです。
子どもの世界の圧倒的なリアルさや、子どもからみた大人の世界。
とにかく子どもの視点で、ヒリヒリするような描写をしているので、
知らず知らずのうちに映画をみているかのように情景が目に浮かび、物語に引きこまれていきました。
中には、こどもらしい言葉遊びの繰り返しの記録などもあるのですが、
実にわかりやすくて翻訳の素晴らしさも感じました。
冒頭にエドウィン・マルハウスの生涯がかかれているので、
悲劇が起こることを前提で物語が進んでいくのですが、ときに、暗闇の中で放たれた閃光のように、
死の影を消すほどの生命力の光に満ちる場面もあります。
圧倒的な熱量、文章量なので、空き時間の合間あいまに読むよりは、
しっかり時間をつくって、集中して物語にのめり込むことをおすすめします。
きっと、多くの人に、読み終わった時に心に何かを残す作品だろう、とわたしは思っています。