ちひろ美術館・東京を訪ねて

江戸建物探訪

今回紹介するちひろ美術館・東京は、西武新宿線上井草駅から北に7分ほど歩いた場所にあります。
ここは、画家、絵本作家として知られるいわさきちひろの自宅跡地に建てられた美術館。子どもと平和を何よりも愛したいわさきちひろの、優しく穏やかな雰囲気があふれるアットホームな美術館です。ちひろの心温まる優しい絵や、絵本とともに安らいだ時間を過ごすことができる場所です。

 

画家いわさきちひろと、ちひろ美術館

いわさきちひろ(1918-1974)は、子どもを生涯のテーマに絵を描いた画家です。
水彩絵の具を駆使し、やわらかで清澄な、独特の色調を生み出しました。西洋で発達した画材を用いながら、水をたっぷり使ったにじみやぼかし、大胆な筆使いを生かした描法などは、むしろ中国や日本の伝統的な水墨画に近い表現をみることができます。

ちひろ美術館・東京は自宅兼アトリエ跡に建ち、世界で最初の絵本美術館として、ちひろや世界の絵本画家の作品を紹介しています。
絵本カフェ、ミュージアムショップ、こどものへや、図書室のほか、ちひろの愛した草花が咲くお庭や画机や本棚など部屋ごと忠実に復元されたアトリエなど人間ちひろに出逢える空間です。

また、ちひろ美術館では、子どもたちが人生で初めて訪れる美術館「ファーストミュージアム」として親しめるように、子連れの来館者が安心して過ごせる様々な館内設備を整えています。
全館バリアフリーで、男性用トイレを含む、すべてのトイレにベビーキープとベビーシートを設置。赤ちゃんや小さい子どもたちが絵本やおもちゃで楽しめる「こどものへや」の中には、授乳室や、小さい子ども用の補助便座を用意したトイレなども完備されています。

展示室に飾られる作品の中心は床から135cm。大人と子どもがともに作品を楽しめるよう展示しています。

 

「ちひろの庭」には、ちひろが生きた時代に観賞用として人気だった植物を中心に様々な花や木が植えられています。枝垂れ桜やバラの開花が見られる春と、花々と紅葉していく木々のコントラストが美しい秋は特に見頃です。

 
 

図書室 こどものへや

2階のガラスの通路から「ちひろの庭」を楽しんだら「図書室」へ。
ここには、国内外の絵本約2000冊をはじめ、ちひろに関する本、ちひろが生きた時代を知る本、子どもの幸せや平和に関する本が配架されています。
また、「ひとことふたことみこと」のコーナーには、開館以来46年間に来館者が記した300冊を超える感想ノートが製本され、自由に読むことができます。幼い頃来館したときに書いた自分の感想を、大人になって自分の子供を連れて見に来られる方もいるそうです。

「ひとことふたことみこと」 来館者の皆さんが書いた感想も「ちひろ美術館」の作品として保管されます。

 

お隣にある「こどものへや」。こちらは赤ちゃんや小さいお子さんが過ごせるよう靴を脱いで上がるお部屋。赤ちゃん向けの絵本や、布のおもちゃなどが用意されています。中でも気になるのが、奥の壁に飾られている不思議なミラー。近づくと、自分の顔がぐにゃぐにゃまがったりたくさんうつったりと面白いので、お子さんたちにも人気だとか。
館長をつとめる黒柳徹子さんも、このミラーがお気に入りだそうです。

 
 

子どもたちのしあわせと平和への願い

青春時代に戦争を体験したちひろは、子どもたちの夢や希望、生命をも奪う、戦争の悲惨な現実を目の当たりにした経験から、平和への願いを強く持つようになりました。
戦後、絵本画家として自立したあと、一人の子どもの母親となります。母となった気持ちを、「うしおのように流れ出す愛情を、どうしようもなくて」と表現したちひろ。そのまなざしは、わが子だけではなく、世界の子どもたちに向けられるようになります。
「世界中のこども みんなに 平和としあわせを」ということばを残しています。
ちひろが描いた子どもや花は、今もいのちの輝き、平和の大切さを語り続けています。

 

ちひろのアトリエ

ちひろのアトリエを部屋ごと復元した空間です。
ここ下石神井は、ちひろが画家として生きたそのほとんどの時期(1952~1974年)を過ごした場所。このアトリエは、1963年の増築時に2階につくられ、以後11年間使用されたものです。ちひろは南に向かって大きく開いた窓の外に広がる木立や、ベランダに並べた季節の鉢植えなどを眺めながら、絵筆をとり、数々の作品を生み出しました。ちひろの仕事が最も充実していた1972年頃の様子を復元しています。

ちひろが仕事をしていた自宅アトリエが復元されています。

多目的ホールは天井が高い展示室。約2ヵ月ごとにテーマを変えて、ちひろや世界の絵本画家の作品を紹介しています。

カフェスペースから見える中庭エリア。

 
 

ミュージアムショップ

美術館でゆっくりしたあとは、受付のとなりのスペースにあるミュージアムショップで、おみやげを買うこともできます。木のぬくもりあふれる家具に、ちひろをはじめコレクション作家の絵本やグッズ、美術館が選んだ絵本やおもちゃ、画材が並んでいます。作品を見て、自分も描いてみたい!と思ったら、こちらでスケッチブックを買ってぜひチャレンジしてみてください。
*ミュージアムショップの利用は、入館された方のみ。

展示作品のポストカードやギフトにも喜ばれるマグカップなどの陶器類、絵本や書籍なども。

 
 

企画展のご案内

谷内こうた展 風のゆくえ
2023年6月24日(土)〜 2023年10月1日(日)
谷内こうたは、1971年23歳の時に3作目の絵本「なつのあさ」で日本人として初めてボローニャ国際児童図書展でグラフィック賞を受賞、鮮烈なデビューを果たしました。
そぎ落とされた絵と詩のような言葉で展開していく絵本は、ヨーロッパや日本で驚きを持って迎えられました。移りゆく光や空気を色の変化であらわし、現実と架空の世界を自由に行き来する谷内の絵本は、今も見るものを魅了し続けています。
本展は、2019年に71歳で亡くなった谷内の、絵本原画や、初公開作品も含めた雑誌の表紙絵、タブローなどを写真や資料とともに展示し、その画業の全体像を紹介します。

ちひろ 子ども百景
2023年6月24日(土)〜 2023年10月1日(日)
いわさきちひろは、生涯一貫したテーマとして「子ども」を描き、あらゆる姿と幼心の機微を絵のなかにとらえました。やわらかな髪やふっくらとした肌、つぶらな瞳、短い手足に愛くるしい仕草……ちひろの描くあかちゃんや子どもは、いきいきと魅力にあふれています。
ちひろは、10ヵ月と1歳のあかちゃんの月齢を描き分けることができたといいます。こうした絵は、子育てのなかで息子やその友だちが遊ぶようすをスケッチし、また育児書のためのたくさんのカットを描いたなかで生み出されました。
本展では、息子をモデルにしたスケッチやさまざまに遊ぶ子どもたちを描いた作品、ちひろ自身の姿とも重なる少女像、絵本『ぽちのきたうみ』などを展示するほか、『育児の百科』など、医師・松田道雄との仕事にも注目します。

ちひろ美術館セレクション 2010→2021 日本の絵本展
2023年10月7日(土)〜 2024年1月14日(日)
2011年の東日本大震災から始まった激動の2010年代。子どもを取りまく環境が変化する一方、画家たちは新しいテーマや表現に挑戦し、絵本をとおして今を生きる子どもたちに向けたメッセージを発信しつづけてきました。絵本界では、2000年代につづき、世代交代が進み、新しい世代のつくり手たちのめざましい活動も印象づけられました。また2010年代をとおして、「3.11」や「福島」を取りあげた作品が生まれ、「生と死」をテーマにした絵本も多く見られました。
2年の延期を経て開催する本展覧会では、子どもを中心とする社会状況の変化と、厳しい時代に求められ、生まれた多様な表現に焦点を当て、2010年から2021年に出版された絵本のなかから、注目を集めた絵本や、今後も活躍が期待される作家の作品を紹介します。

いわさきちひろ やさしさと美しさと
2023年10月7日(土)〜 2024年1月14日(日)
いわさきちひろにとって、「やさしさ」「美しさ」は大切なキーワードでした。それらは、彼女の価値観のなかに根差しており、表現される作品にもつながっていました。約半世紀が過ぎ、私たちをとりまく社会や環境は大きく変わりました。そのなかで今もなお、ちひろの絵が人々の心を捉えるとしたら、それは、彼女が大事にしてきたことが、普遍的なものであるからなのかもしれません。ちひろの描いた「やさしさ」や「美しさ」について考えます。

 
 

ちひろ美術館から上品倶楽部読者の皆さまへ

東京の練馬区下石神井にあるちひろ美術館・東京は、いわさきちひろが最後の22年間を過ごし、数々の作品を生み出した自宅兼アトリエ跡に建てられた世界で最初の絵本美術館です。
絵本はことばや文化、国や民族の違いを超えて、0歳から100歳を超える方までが楽しめる芸術です。
当館では子どもから大人まで楽しめる世界の絵本画家たちの企画展やイベントを開催しております。
ぜひご来館いただき、絵本の世界がもつ穏やかで優しい時間をお過ごしください。

 
 

編集後記

画家いわさきちひろさんの暮らした住居跡地につくられたちひろ美術館を訪れてきました。ちひろさんの描いた、可愛らしい子どもの絵は誰もが一度はみたことがあると思います。
子どものしあわせと、平和をなによりも愛していたちひろさん。亡くなってから半世紀近い時間が流れていますが、この場所が今も多くのこどもや、子育てをするお父さんお母さんの安らぎの場となっていることを、きっと何よりも嬉しく感じているのかもしれないな、と思いました。
柔らかで透き通った色彩のちひろさんの絵をみていると、世界のすべての子どもたちが幸せに日々を生きられるように、とせつなる祈りのようなものを感じました。
今も、世界中で痛ましい出来事がおこり、戦火の中で辛い思いをしている子どもたちがいるということ。私たちも、今一度、平和について思いを寄せていかなければならないとも思いました。
長野県の安曇野にあるもうひとつのちひろ美術館もおすすめです。安曇野の豊かな自然の中で、優しい作品とともにゆったりと穏やかな時間を過ごせます。ぜひ一度訪れてみてください。

 
 


ちひろ美術館・東京

〒177-0042 東京都練馬区下石神井4-7-2
TEL:03-3995-0612 / テレフォンガイド:03-3995-3001
FAX:03-3995-0680

開館時間:10:00~17:00
※入館は閉館の30分前までにお願いいたします。
休館日:月曜日(祝休日は開館、翌平日休館)※その他、冬期休館や展示替えのための臨時休館あり 詳しくはオフィシャルサイトでご確認ください
WEBサイト: https://chihiro.jp/
入館料:大人1000円、18歳以下・高校生以下は無料

<アクセス>
・西武新宿線上井草駅下車徒歩7分
・JR中央線荻窪駅より西武バス石神井公園駅行き(荻14)「上井草駅入口」下車徒歩5分
・西武池袋線石神井公園駅より西武バス荻窪駅行き(荻14)「上井草駅入口」下車徒歩5分

 

 

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