私の本棚からvol.25

編めば編むほどわたしはわたしになっていった 三國万里子 著

編めば編むほどわたしはわたしになっていった 
三國万里子 著
新潮社

 

 

 ものを作る人のエッセイはとてもおもしろいものが多い。これは私の主観ですが、本が好きな方とそんな話をすると、結構同意をしてくれることが多いのです。もちろん、書くことを職業にしている著者の本も素晴らしいものはたくさんありますが、執筆とは別の職業をなりわいとしていて、そしてその本職がなにかを『つくる』人の書くエッセイはかなり読み応えがあるものが多いと感じます。
 ひとつのものに対して、長年真剣に向かい合って、その道のスペシャリストになると、その人が過ごした幾万時間分の『つくる』時間の中で、言葉の熟成が行われているのではないか。勝手ながら、そんな仮説をたてています。
 今回紹介する本の著者、三國万里子さんの本職は、編み物作家です。三國さんのニット本を最初に手に取ったのは、もう15年も前のことですが、なんとなく野暮ったくなりがちな手編みニットのデザインが、こんなにスマートで洗練されたものになるのか、と驚いたことを覚えています。それ以来、三國さんがニット本を出すたびに必ず購入するほどファンになってしまいました。昨年、三國さんが初めてのエッセイ本を出したと聞き、すぐに購入し読んだのですが、ここで再び、衝撃をうけることになりました。すごく、良いのです!
やっぱり私が立てた仮説は案外間違っていないのかもしれない、と思いました。
 エッセイは、仕事まわりのことだけではなく、子供の頃のこと、家族のことなど、とてもプライベートなことなどが書かれています。三國さんの目線から見た世界が、リズミカルかつ丁寧に表現されていて、喉越しの良い水のように、するすると読めます。ときどき、心がぎゅっと締め付けられるような気持ちになったり、くすっと笑えるところもあったり、とにかくおもしろくて、一度読み終わった後も繰り返し読んでしまいました。
 

 インタビューだったか、なにかの本の中の言葉だったのか、忘れてしまいましたが、どんな気持ちで仕事(編み物)をしているか、という問いに対し、三國さんが言った言葉です。
「神様の気持ちに適うものだけできたらいい」
 そんな気持ちで仕事をする人だからこそ、きっと多くの人の心を動かすものをつくることができるのでしょう。そんなふうに思います。
おそらく、編み物をつくるときの心のまま、ひとめひとめ編むように書かれた文章だから、このエッセイもたくさんの人の心に残る作品になるのだろうなと思います。
(文・野原こみち)

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