私の本棚からvol.14

箸もてば / 石田 千


箸もてば/石田千
新講社

 

 

 食べ物にまつわる随筆というのは、数多くあれども、読んだ後に本当にお腹が減ってたまらなくなるという一冊に出会うのは稀のような気がします。
 テレビ番組で活躍する、食レポがとても上手なタレントさんは、表情や仕草、それに言葉も加えて、テレビの前で観ている人の食欲を刺激することができますが、対して随筆というのは言葉一つの武器しか持たないことになります。

 しかし、石田千さんの食べ物にまつわる随筆は、ため息が出るような表現の「うまさ」があります。
 読了後には、美味しいものを食べたくなるし、作りたくなる。
 実はこの「作りたくなる」の方が重要で、いかに料理を作ることの楽しみを文中に演出しているか、が問われるところではないかと思います。一見面倒にも思える「料理」という行為自体を、スムーズで満ち足りた至福の楽しみとして表現し、読了後、居ても立っても居られないほどに、調理意欲を掻き立てる。
 日常の中にありふれた、生活感のあるなんでもないような事柄が、言葉の彩りを加えられて、何にも変えがたい愉しみのひとつに変化してしまいます。
 それは、さながら魔法のようなものだと思うのです。
 趣味や仕事の中で行われる料理とは違い、家事の中のひとつとしての料理は、どうかすると気持ち一つで、面倒ごとの分野にジャンル分けされてしまいます。なんでもない日々の、たった一食、たった一品に、世の中の主婦(主夫)がどれだけ頭を悩まされていることか。
 家族の「美味しい」の一言で、モチベーションが上がる人もいれば、SNSの投稿を励みにする人、料理番組の美味しそうな料理を再現しようと夢中になる人、八百屋でつやつやに輝く旬の野菜を見てやる気になる人、料理に対して気持ちを「上げる」方法は人それぞれだと思います。
 手間をかけないでさっと出せる食べなれたものを2、3品用意しての晩酌。
 自分の好きな材料を色々乗っけて気兼ねなく食べる冷やし中華。
 八百屋のおかみさんから習ったやり方で旬の筍を贅沢に丸茹でする。
 いずれ、自分の体をつくるものならば、愉しみ、ワクワクして、嬉しい気持ちでいただきたいものです。
 落ち込んだりストレスが溜まるとすぐに食べれなくなってしまう私は、本を読みながらお腹がぐうと鳴ったときは、ああ今日も平和に生きている、と有り難く思います。
(文・野原こみち)