「もてなす」とは、日本で古くから使われてきた言葉。
食事をご馳走するという言葉でもありますが、お客様を大切に待遇するという意味もあります。
このコンテンツでは、上品倶楽部のライターさんやこれまでに取材させていただいた方々など、様々な形で繋がりがある人たちをご紹介していきます。
それぞれの分野で活躍をされている方々の仕事や暮らし、これまでの活動など、ご紹介していきます。
それぞれのみなさまが、自分の仕事に尽くし、日々お客様を様々な形で「もてなし」ている立場にあります。
上品倶楽部では、そんな皆さまに敬意を払いつつ、「もてなし人(びと)」とお呼びすることにしました。
様々な業種の様々な個性を持つ方々のお話、ぜひお楽しみください。
第2回 Granscape 大石剛正さん
編集部
前回のあこさんと同様に、大石さんも日頃から上品日記でライターとしてご協力していただいています。
ランドスケープの会社を運営されている大石さんは、日記の中でも日々のお仕事の一幕など植物にまつわる話題を書いていただいていますが、今回は普段お聞きすることができないような疑問を編集部から投げかけさせてもらいました。
なぜ、今のお仕事に就こうと考えたのですか?また、そこまでのプロセスについて教えて下さい。
大石
この仕事についたのは30歳になってから。それまでは国家公務員で大学に勤め、その後大学院で学び直し環境アセスメントの会社で環境影響評価の仕事をしていました。研究職がずっと憧れだったこともあって望み通りの職場ではあったもののストレスが多く、その頃は週イチで偏頭痛がひどくて動けない日がありました。おそらく自分でやりたいと思っていた仕事が実はあんまり向いてなかったようです(笑)。
そんなある日、駅前近くのガテン(就職情報誌)を見ていたら、たまたま造園の仕事が紹介されており、面白そうだし何よりストレスが少なそうな仕事だなと思いその会社に応募しました。
まるで畑違いの職種だったため驚きの連続!悪戦苦闘の毎日でしたが、そこで7年ほど働いた後今の会社を設立しました。その頃のお客さんや、その時のスタッフに背中を押されて・・という感じでした。
大石さんの代表作 明治記念館
編集部
樹木や草花に、癒されたなと感じた経験や記憶(大人になってからのことでも)について、印象的なものや深く感じた事があれば教えてください。
大石
自分に限ってかもしれませんが、子供の頃に自宅に植えてあった植物を見るとその季節や子供の淡い思い出をぼんやり思い出します。それは戻ることのない時間であり、自分がもう経験することのないことだったりするわけで、それらを思い出すときに何とも切なく胸が詰まるような気持ちになります。
またジンチョウゲやクチナシなどの花の匂いでもまた昔を思い出します。イヤイヤ塾に通う道の脇に植わっていたみたいな(笑)。良い記憶でも悪い記憶でも、僕にとっては昔を思い出すトリガー的な役割をしているようです。
また、実家の家を建て替える時に母のパーキンソン病が発覚し、家にいながらにして四季を楽しめるようにと計画した庭は母のお気に入りの場所になり、昨年他界するまで植物を題材に絵手紙を書いたり写真を撮ったりと楽しんでいました。母にとっての癒しの庭だったのかもしれません。
大石さんが手がけたパークタワー横濱ポートサイド
編集部
ご自身が携わっている植栽の分野に対する思いや展望などを教えていただけますか。
大石
僕がこの世界に入った頃と比べると、扱える植物の種類が増え、また壁面や屋上など、緑化化が困難な環境にも植栽できる資材も整備されてきました。さらに近年の温暖化による都市気候の変化で、亜熱帯の一部植物も植栽できるようになったり、グリーンを取り扱うメディアの取り扱いもびっくりするくらいおしゃれな扱いになったりと、我々を取り巻く環境は年々変化していると感じます。現在のこの業界の置かれている状況は好ましく思える一方、それらを形作るための樹木の生産はその構造的なハンデ(苗を購入し大きく育てるまで時間がかかるためキャッシュに余裕がないと難しい)から若い世代に嫌われる傾向にあり、世代交代がすすまず一部生産が滞っている現状があります。今我々が色々な種を使うことができるのは何年も前から育てている生産者さんのおかげであり、今この瞬間にも先を見越して新たな種苗を植えていかないと将来、需要はあるけれど植えられないような困った状況になるかもしれません。
これからはプランニングする側から、少しでも生産に関わるところで力になることがあれば関わっていきたいと考えています。
大石さんが仕事で手がけた「モンスーンカフェ」
編集部
コロナ後の世界において、ランドスケープがどのような役割を担っていくとお考えでしょう。
大石
コロナになってこれまでの忙しい時の流れにあまり気づかなかったことが気づくようになった事も多いと思います。僕は家の壁をペイントしました(笑)。
家で長時間過ごすうち、息苦しさを少しでも和らげようとインドアグリーンの売上が伸びているようです。恐らく今後一層これらの緑の需要が増え、インドアのみならず建物の外側も、緑を重視した外構計画がこれまで以上に増えていくような気がします。
人々が求める環境をランドスケープが落とし込んでいく、昔のような建築主導のそれは違い、とても繊細でデリケートになってきているような・・・とても重要な局面に来ているように思います。
大石さんが仕事で手がけた「ペルー大使館」
編集部
最後にご家庭や職場などで楽しめるランドスケープや植物のある空間作りのヒントがあれば教えてください。
大石
まずは日当たりの良い場所にローズマリーやタイムを植えてみたり鉢植えを置いてみたりしてはいかがでしょう。食べられる植物には愛情を注ぎやすいと思います。
ハーブは買うと多すぎるしドライにすると香りが飛んであまり美味しくなくなります。
いつも手を伸ばせば摘めるところにあるととても重宝しますしハーブは強い性質のものも多いので、育てるのは楽なことが多いです。
あとリビングやオフィスには少し大きいくらいの観葉植物を置いてみるとどっしり感が出て落ち着く空間になりますよ。我が家にも3mくらいのベンジャミンがあって、御神木になっています(笑)。
GranscapeにとってのSDGsとは
ランドスケープの業務自体がSDGsに対応していると思います。
具体的には。。。
・住み続けられるまちづくりを実現させるため環境を読み、植物の性質に合った計画を立て、持続可能な緑地を日々世に送り出しています
・作る責任使う責任として、設計者側から植物の生産の方向性や仕組みを見直すことで、持続可能な消費と生産のパターンを見直して行きます。
・緑の豊かさを守ろう 多種多様な種を植栽することで陸上の植物の種の多様性の保存に役立っていると考えています。
・働きがいも経済成長も スタッフを取り巻く様々な状況に対応した働き方を認め、働きがいのある職場づくりを推進しています。
リモートワークはコロナ直後からスタートし、子供のいる家庭のスタッフには時短勤務も認めるなど、柔軟な働きかたでスタッフをサポートし、働きがいに繋げられればと思っています。
大石剛正(おおいしたかまさ) プロフィール
グランスケープ(有)代表取締役。1965年佐賀県生まれ。法政大学大学院人文科学研究科修了。環境コンサルティング会社勤務を経て、(株)グリーンワイズ(旧東光園)入社、その後グランスケープ(有)設立。代表作に明治記念館料亭「花がすみ」坪庭、ペルー共和国大使館、リソラ大府ショッピングテラスなど多数。環境コンサルティング時代に培った植物生態、自然環境への理解をベースに、マイクロクライメイトを考慮した集合住宅、商業施設、福祉施設、個人邸などの計画を行う。2016年、成城四丁目「結美の街」プロジェクトにてグッドデザイン賞受賞。