島とクジラと女をめぐる断片/アントニオ・タブッキ 須賀敦子訳

こみちの本棚 21冊目

物語に書かれている文章の、影の部分に隠されているもの。
ときどき、映画を観たり、絵画を見たり、本を読んだりすると、目に見えているものとは別の何かを作者は伝えたがっているのではないかと感じることがあります。
いわゆる「隠喩」というものです。
この本では、まえがきの部分で作者自身がそういう話だと仄めかしています。

ポルトガル沖およそ1000kmの大西洋に浮かぶアソーレス(アゾレス)諸島。この、日本からあまりに遠く離れた場所が、タイトルにある「島」のことです。
美しい島々の景観と、クジラが訪れる海。ポルトガルからの移民と、もっと古くから住まう海と共に暮らす島の人々。
旅行記のようで、そうでもない。島に存在する人の物語と、海に暮らすクジラの物語。断片から何かが見え隠れするように、不思議な構成になっています。
何を隠しているのか、それを見つけられるか否かは、もしかしたら読了後の満足感とは関係ないのかもしれません。
私は、ただ、心を掴まれる一節と出会い、物語を自分が暮らす生活とはかけ離れた場所のまったく別の日常を垣間見たことで、頭の中に美しい情景を描くことができました。
ちなみに、アソーレス諸島は本当に美しい景観の島なので、ご存知ない方は、写真だけでもお調べいただくことをおすすめします。

島とクジラと女をめぐる断片
アントニオ・タブッキ
須賀敦子 訳
河出文庫

(文:野原こみち)