ちよう、はたり/志村ふくみ

こみちの本棚 20冊目

始めてこの本を読み終えたときには、わたしの心の状態をそのまま体が表したように、本を持つ手が震えていました。
なんという、美しい言葉と、丁寧に織り上げられた文章か。そして、それを書き上げた著者の方は文章を書くことが本職ではない。
作者の志村ふくみさんは、紬織の染色技術で重要無形文化財となった方でもあります。つまりは、人間国宝です。
なにげない日常のことを書き留めていたり、志村さんが見たものや感じたこと、書簡、それらを集めた一冊ですが、根底に静かに強く、発光する光のようなものを感じます。
人生をかけて、「ものをつくる」ことに才能と情熱を注ぎ続けている人の書く言葉は、かくも素晴らしいものになるのかと、呆然としました。

なにごとかに本気で臨んでいる人が書いた言葉は、時に激しく人の胸を打ちます。
ちょうど、この本を手にとったとき、私の心は大きな迷いと先行きの見えない状況への不安で圧迫されていました。
自分がいる環境からかけ離れ、まったく別の世界の出来事のような随筆の内容を目で追いながらも、生まれて、生きて、仕事をするということを改めて深く考えました。
人の一生は長いようで短くて、短いようで長い。おそらく、遠く過ぎ去った時間を振り返ったときに、その長さが自分にとってどうであったか実感するのでしょう。もし、ただぼんやりして、多くの時間を過ごしたら。為すべきと感じることを為さずにいたのなら。そのときは、後悔とともに時が過ぎる短さが身に迫るのだと思います。
自分が為すべきと感じることに、今、しっかりと向かい合う。
優しく、強く、時に厳しい、凛とした姿勢で常に全身全霊で戦う師匠の背中を見て、決意を新たにする弟子のように、大切なことを学ばせていただいた一冊です。

ちよう、はたり
志村ふくみ
ちくま文庫

(文:野原こみち)

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