学生時代、数学が苦手で仕方ありませんでした。
高校時代、古文のテストでクラスで最高得点をとったのに、数学ではクラスで最低点をとるという、あまりに極端な結果を出したこともあります。先生たちは頭を抱えていたんでしょうが、当時の私はあまり深刻には考えていませんでした。
そんな開き直る不遜な態度だったのにも原因があって、思い返せば、小学生の頃の算数時代に遡ります。
掛け算九九を習っているときに、暗記した九九を平均タイムを上回る速さで暗唱できるまで居残りしなければならないという日があり、何度も列の後ろに回って、最後は泣きながら家に帰った思い出があります。
落ち込んだ私を元気づけようとしたのだとおもいますが、父が「オレも数字が苦手だけど、数学で習った事は大人になってあんまり役に立ってないぞ」と言いました。いや、実際にはそんなことはないと思いますが、子供のわたしは、嫌いだし、役に立たないなら、まあいいや、と、ますます数学に距離を置くようになってしまいました。
あるとき、数字好きな友達と仲良くなることで、数学への興味が湧いたこともありましたが、それも一時的なことでした。
そんなわけで、まじめに数字のことを考える事なく、大人になっていったのですが、仕事をするようになって「数学を理解していればもうすこし楽に解決するのに!」と思う場面に何度も直面することになります。後悔先に立たず・・・。25才を過ぎたあたりから、急激に苦手な数学への興味が沸き起こって、数学に関する本も手に取るようになってきました。(もちろん、理解できるか否かは置いておいて)
この本は、森田真生さんという若き数学者の著作です。
具体的に、数学の問題を解く、とか専門的なことが書かれているわけではなく、いうなれば、数学と共に生きている人たちが、どんなふうに世界を見ているのかが垣間見える内容になっています。
当たり前ですが、人間社会が文明を持ち発展する過程で、数学というのは必要不可欠なものであったわけで、時代を変えるような発明や理論とも深い関わりを持っています。
コンピューターの原型を作ったと言われるチューリングマシンで有名な、アラン・チューリング。
世界的に有名な日本を代表する数学者で、数学を愛し、自然と共に生きた岡潔。
わかりやすく読みやすいエピソードに心を打たれながら、数学と共に生きる人はきっと今の自分とは違う風景が見えているのかもしれないな、ととても羨ましい気持ちになりました。
もし、タイムマシンで過去に戻れるならば、あの頃の、数学に対して完全に心を閉ざしていた私に差し出してあげたいな、と叶わぬ願いをつい思い描いてしまいます。
数学する身体
森田真生
新潮社
(文:野原こみち)