「街歩き × 学び」の講座
「東京∞(むげん)散歩」とは、歩きながら目に入った建物、史跡、庭園、都市インフラ、その他目に入る色々な物に興味を持ち学習、歩きながら東京の歴史や散歩の楽しさを知る講座です。
こちらは、すぎなみ松本カレッジが企画・運営、現在は40名の会員が登録中。毎月一度街歩きか座学の講座を受講しています。
都市の文化を学び、新しい智慧として身につけつつ、楽しみながら体を動かすことができるこのイベントは、「心(精神的)の豊かさに繋がる」=「上品な暮らし」を求めることをモットーとしている上品倶楽部の理念とも共通します。
今回、上品倶楽部編集部では、東京∞散歩の一員として、新宿を歩く講座に参加させていただきました。その様子を特集します。
こちらのページでは、通常の東京∞散歩の講座スケジュールを案内しています。日程や、お申し込み方法などの詳細はこちらからご覧ください。
講師の先生
東京∞散歩では、建築や土地の専門的な知識がある講師の先生が同行します。集合場所で手渡せるマップとテキストを確認しながら、訪れるスポットで講師の先生の見どころの説明を聞くことできます。
松本 裕介 Matsumoto Yusuke
東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程。日本建築史を10年間研究。その後、日建設計、アトリエ系建築設計事務所を経て、独立。住宅・医療施設などの設計を行っている。現在、杉並区や江東区などで建築史講座講師をつとめる。また趣味として20年以上つづけてきた街歩きの経験を生かし、市民対象の歴史的建造物散策・史跡散策グループを主催。趣味は美術鑑賞、茶道、古文書解読など。
新宿講座の行程
JR新宿駅新南口改札で集合後、以下の行程で進みました。
新宿駅新南口
この日は新宿での講座ということで、JR新宿駅新南口改札に集合。全員が集合するまでの時間に、駅に掲示されている近隣のマップを見ながら、今日の行程を聞きます。
1.天龍寺(時の鐘)
タカシマヤタイムズスクエアの近くにある曹洞宗の寺院、天龍寺。こちらは、前身は遠江国にあった法泉寺で、徳川家康の側室である西郷局(於愛の方)の父、戸塚忠春の菩提寺だったそうです。西郷局が後に江戸幕府第2将軍となる徳川秀忠を産んだことから、家康の江戸入府に際して、遠江国から現在の牛込納戸町・細工町付近に移されました。そのとき同時に寺名を天龍寺と改めましたが、これは法泉寺の近くを流れていた天竜川に由来するそうです。徳川親族の菩提寺として賑やかな江戸に移されましたが、天和の大火によって焼失し、現在の南新宿に移転されたという歴史があるそうです。
こちらのお寺には、新宿に時刻を告げた「時の鐘」が存在します。寛永寺、市谷鶴岡八幡宮の鐘と並び、江戸三名鐘と称されていました。江戸の外れに存在したため、武士が江戸城に登城するにも時間がかかるため、明け六つの鐘を少しはやめに撞いたと伝わっています。
2.新宿御苑 旧新宿門衛所
少し街を歩いて、新宿御苑にきました。こちらの旧乙門は、昭和2年(1927)に建てられた門衛所です。当時の独特のデザイン性や、御苑の歴史的・景観的価値が評価されている建造物です。門を通り、爽やかな緑の景色を横目に、当時の建築法や特徴などを学びました。
3.太宗寺
次に訪れた、浄土宗本覚院の太宗寺は、見どころがいくつかありました。こちらは新宿山ノ手七福神の布袋尊でもあり、入り口を入ってすぐの右手には、江戸六地蔵のひとつ、銅造地蔵菩薩坐像があります。像高は267cmとお地蔵様にしてはかなり大型で目をひきます。また、こちらの寺院には閻王殿(閻魔堂)があり、総高550cmと都内では最大の閻魔像が鎮座。さらにその隣には、さらに恐ろしげな顔をした脱衣婆坐像も安置されています。さらに境内には、額に銀製の三日月を戴く、三日月不動像や、真っ白に塩をかぶる塩かけ地蔵もあります。
4.新宿末廣亭(区地域文化財)
太宗寺から新宿駅方面に少し戻ってくると、途中新宿末廣亭の前まできました。ここは都内に4軒残る落語定席の一つであり、現在も落語協会と落語芸術協会が10日ずつ交代で興行を続けています。昭和21年建造の木造建築で、客席は1階と2階があります。寄席のビル化が進んでいる中で、東京の定席としては唯一の木造建築で、江戸時代の寄席の風情をとどめる建造物です。
5.新宿追分
甲州道中と青梅街道の分岐点で、追分の名前は、今もビル名や、名物「追分だんご」などに見ることができます。
6.伊勢丹新宿店
新宿3丁目にあるデパート、伊勢丹新宿店は、新宿の街並みのランドマークの一つでもありますが、東京都選定歴史的建造物にも指定されていて、じっくりと見るとそこかしこに見どころが満載です。アールデコスタイルのモダンな外装デザインに加え、屋内でも、屋上への階段途中にあるステンドグラス、レトロモダンなデザインの階数表示など、随所にこだわりの意匠がみられます。また、屋上庭園は植栽にも力を入れていて、グリーンの中で一息つくこともできます。
7.新宿中村屋
この日の工程はこれで半分弱。ここでランチタイムをとりました。新宿中村屋で名物のカレーをいただきます。
8.安与ビル/柿傳
楽しいランチタイムを過ごしたあとは、午後の工程です。まず最初に訪れたのは、新宿駅東口の安与ビル。こちらは安与商事株式会社が所有する商業ビル。明治から戦後にかけて新宿東口界隈で成功した事業者、安田与一。その息子、善一が父の記念塔として建設したそうです。息子善一が親交のあった作家川端康成の書を記した額が、エントランスホールに掲げられています。また、川端とのつながりから「美の店」構想がはじまり、一度頓挫したものの、のちに京都表千家に出入りする300年の歴史を持つ仕出し店「柿傳」の流れをくむ茶懐石店が出店することになりました。
登録有形文化財にも指定されている、和とモダンが融合した商業ビルです。
9.常圓寺
ここから一気に西口に移動。高層ビル群の中にたたずむ、寺院常圓寺を訪れました。こちらには唐橋在綱子爵墓、加賀藩士水野徳三郎寛友墓、建築家辰野金吾・室秀子夫妻の墓など、著名人の墓所が在ります。書院は昭和27年に日野市豊田の豪農の母屋を移築したもの。また、常圓寺の西隣の常泉院は寛文年間に日得上人が創建したもので、左手に子を抱き右手に宝珠を持った木造の鬼子母神像を安置されています。
10.旧淀橋浄水場蝶型弁
新宿住友ビル構内にも、貴重な文化財が残っています。昭和40年に廃止された淀橋浄水場で使用された内径100cmの鉄管に蝶型の止水弁がついた配水バルブです。中央部には東京都水道局のマークと「昭和12年」という文字が刻まれています。傍らの壁面には「東京都水道発祥の地」の銘板も飾られています。
11.東京熊野神社
新宿中央公園に隣接した東京熊野神社。こちらは、中野長者と呼ばれた鈴木九郎が故郷である紀州熊野三山より十二所権現をうつし祀ったものと伝わっています。一説によると、この地域の開拓にあたった渡辺興兵衛が、天文・永禄年間の熊野の乱に際し、紀州よりこの地に流れ着いて熊野権現を祀ったともいわれます。江戸時代には、熊野十二所権現社と呼ばれ、幕府による社殿の整備や修復も何回か行われたそうです。享保年間には八代将軍吉宗が鷹狩りを機会に参拝するようになり、滝や池を擁した周辺の風致は江戸西郊の景勝地として賑わい、文人墨客も多数訪れたそうです。
12.東京都庁・都民広場
最後は言わずと知れた新宿西口の最大のランドマーク、都庁です。こちらは昭和63年4月着工、平成2年12月に竣工されました。設計は建築家の丹下健三。
都民広場は、都議選のニュースなどで見覚えがある場所かもしれません。こちらは都庁と同じく建築家・丹下健三が、年・建築設計研究所所員とともに、バチカンのサン・ピエトロ広場を実測した上で設計された場所です。
編集後記
初めて参加してみましたが、楽しい一日でした。普段何気なく行っている新宿の街も、実は価値のある文化財や歴史的建造物などが多くあり、いつもとは違った奥行きを感じられる散歩でした。今まで知らなかった知識に触れることは、身近な景色を違った角度から見つめるような、不思議な感覚になります。
今回のご紹介は、街歩きの「見学会」のみの紹介でしたが、東京∞散歩に申し込むと、座学と見学会がセットになっている講座です。ぜひ豊かな学びと、楽しい散歩の時間をお過ごしください。詳しくは以下詳細ページをご確認ください。
通常の東京∞散歩の講座スケジュールを案内しています。日程や、お申し込み方法などの詳細はこちらからご覧ください。
東京∞散歩×上品倶楽部コラボ企画
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東京∞散歩と上品倶楽部がコラボレートしたイベントを2024年秋頃に予定しています。イベントの詳細は、決まり次第こちらでお知らせします。お楽しみに!