もてなし人たち Vol.4

コピーライター 中館慶子さん

「もてなす」とは、日本で古くから使われてきた言葉。

食事をご馳走するという言葉でもありますが、お客様を大切に待遇するという意味もあります。
このコンテンツでは、上品倶楽部のライターさんやこれまでに取材させていただいた方々など、様々な形で繋がりがある人たちをご紹介していきます。

それぞれの分野で活躍をされている方々の仕事や暮らし、これまでの活動など、ご紹介していきます。
それぞれのみなさまが、自分の仕事に尽くし、日々お客様を様々な形で「もてなし」ている立場にあります。
上品倶楽部では、そんな皆さまに敬意を払いつつ、「もてなし人(びと)」とお呼びすることにしました。
様々な業種の様々な個性を持つ方々のお話、ぜひお楽しみください。

第4回 コピーライター 中館慶子さん

編集部

これまでのもてなし人で紹介させていただいた方とおなじく、中館さんも上品日記でライターとしてご協力していただいています。
コピーライターとして長年活動されている中館さんは、言葉をつかって「伝える」お仕事をされています。中館さんの暮らしの様子は日頃の上品日記でも垣間見ることができますが、今回はお仕事に関するこれまでの歩みや役割、またこれからの展望などを、編集部から問いかけさせていただきたいと思います。
まずは、コピーライターをすることになった経緯を聞かせてください。

 

中館

子どものときから、本の中の世界に浸るのが大好きでした。絵本にはじまり、童話や小説やエッセイ。生まれ育った北海道の故郷は、かつては遊び場らしい場がほとんどなく、長い冬は寒風や吹雪のため外で遊ぶというのもなかなか厳しく。かといって、おもちゃやゲームをいくつも与えてくれる両親ではなく、ただ本だけはわりとふんだんに買ってくれた記憶があります。教育の一環というわけでもなさそうで、小説でも漫画でも本であればジャンルにこだわらず。放課後はランドセルを置き、時間があれば活字を追い、遠い憧れの外国に思いを馳せたり推理小説の探偵気分になったり。狭く単純な子どもの世界を、広く輝く世界に誘ってくれたのが本でした。

ひとつの言葉、一行の文章が、想像力を掻き立て、人を感動させ、笑わせ、泣かせる。スゴイ。自分も大人になったら言葉を扱う仕事に就きたい。そんな原体験が今の仕事につながっている気がします。

コピーライターという職業があることを知ったのは、林真理子さんの「ルンルンを買っておうちに帰ろう」を読んだ高校生のとき。これだ、と膝を打ちました。札幌のマスコミ系の専門学校に進み、その後上京。ダメもとでコピーライターの求人に応募し、なぜかするりと受かり、コピーライターという肩書きをいただきました。コピーライターは特に資格を必要とする職業ではなく、そう名乗った日から、コピーライター。後日聞いたところによると応募者が80人くらいいたそうで、なぜこのわたしを? と社長に問うと「なんだか堂々としていたから」だそう(笑)。でも、30年以上このお仕事をさせていただいているので、さすがにもう堂々とコピーライターと名乗ってもいいのかな、と。

 

 

編集部

学生の頃に経験した今の仕事につながるようなエピソードがありましたら教えてください。

 

中舘

80年代頃までは、広告自体が元気な時代でした。テレビCMや百貨店のポスターなど、強いビジュアルとコピーで、なんだかよくわからないけれど一瞬にして持っていかれる感じの広告がたくさんあり。数十年経った今でも、その時代時代を切り取った名作として鮮やかに心にあります。糸井重里さん、仲畑貴志さん、眞木準さんをはじめ、いわゆるスターコピーライターの方たちが生み出した名作はたくさんありますが、わたしは特に岩崎俊一さんの紡ぎだしたコピーが、時代を超えてもなおしっくりときます。

そういったコピーから刺激を受けたことは確かですが、コピーライターという仕事の考え方に大きく影響したのは意外と音楽の存在もかもしれません。そう、歌詞です。ニューミュージック、テクノ、シティポップ。メロディを聴きレコードの歌詞カードを眺めながら、短いセンテンスに込められた想いや意味や意図を探る作業は、のちの言葉をチョイスする仕方や発想力を大いに鍛えてくれるものでした。誰に、どんな言葉で、どんなメッセージを届けるのか。昔の歌詞に限らず、今の若い世代の言葉選びのセンスからも勉強になることがたくさんありますね。

 

 

編集部

コピーライターという職業が、具体的にどんなことをしているのか、日頃の仕事の内容などを教えていただけますか。

 

中舘

わたしの場合はマス広告のコピーワークがメインというわけではなく、通販カタログやファッションカタログ、レシピブック、企業のブランディングやホームページ制作など、さまざまなジャンルと媒体を手がけています。しかもコピーワークそのものより、その周辺の領域に関わる仕事の方が圧倒的に多く。主な仕事の流れとしては、まずオリエンテーションがあり、その段階で丁寧にヒアリングを行います。クライアントの相談内容から考えられる課題を明確化し、どんな媒体が有効的で、いつ、誰に向けてどんな発信をしていくのか。案件に関わるデザイナー、フォトグラファー、スタイリストの方々とアイデアを出し合い意見交換をします。コピーライターは表面的には言葉によるアプローチですが、まずは全体構成を考えながらプロジェクトの一体感を高めるためのキーワードを作成します。クライアントも含めたチーム全体が同じ船に乗り、みんなで同じ方向へ漕いでいけるように。いわゆるキーワードというのは灯台のような役割でしょうか。迷ったら、そこを頼りにするという。船を漕ぎ始めてからは、まず核となるキャッチコピーを作成。それが決まったら、ボディコピーやコラムなど必要な情報を効果的なカタチで盛り込むための原稿制作へ。その間にも資料収集と整理、取材、撮影の立ち合い、編集、スペック作成、リライト、校正などの仕事も欠かせません。なんでも屋に近いかもしれません(笑)。

これら一連もスムーズに進行することはあまりなく、予算の都合や社会情勢などさまざまな理由により、ある日突然航路変更を余儀なくされることも。臨機応変に対応できる柔軟さと、ゼロ地点に流されても何度でも出発できるタフさ。コピーライターにとっての不可欠要素です。

 

 

編集部

コピーライターという職業が担う社会的な役割というのは、どんなことだと思いますか。

 

中舘

突き詰めると、言葉を通して送り手と受け手の「共感」をつくること。一方的に投げかける言葉でなく健康的な共感を生む言葉で。共感が生まれると受け手側に動機が芽生え、アクションが起こり、コミュニケーションが広がる。世の中が活性化したり、ブームが巻き起こったりということもあるかもしれません。単に購買意欲をかきたてる波及効果ということではなく、モノやサービスであふれかえっている現代においては「なくす・消す・減らす」といった行為も価値のあることだと思っています。企業も生活者もSDGsへの意識がますます高まっていますし、そういったムーブメントもやはり共感から始まることで。社会生活において、共感をつないでいくことが大きな役割だと思っています。

 

 

編集部

日々感じる、言葉を使う上での楽しさ、また反対に、難しさはありますか。

 

中舘

言葉は、よくも悪くも人の感情を揺さぶる「いきもの」のようなものであり。心を込めて扱うと世の中をいきいきと走り回って人を幸せにしますが、反対に雑に扱ったりや置き場所を間違えてしまうと、勝手に暴走して誰かを傷つけてしまうことさえあります。仕事上、自分の作品作りをしているわけではないので、文章に感情を持ち込んではいけない。嘘はもちろん論外。では、事実だけを語ればよいかというと、それでは何も共感が生まれない。読んでもらうにはリズムやテンポも重要。句読点の位置や有無に長い時間迷うこともあり。

経験によってカバーできてしまうことも多々ありますが、コピーライターという仕事の難易度は確実に上がっているように感じます。メディアが多様化し、個々の嗜好や行動も細分化し、時代によって問題意識もどんどん変化していく。多くの人を動かすコピーを生み出すのはとても難しいと感じます。その反面、脳みそが疲弊するくらいに考えたり迷ったりしても、わたしというフィルターを通したコピーを世に送り出し、いい反響をいただいたときは、心からの充足感があります。

 

 

 

編集部

仕事をする上で感じる希望や今後の展望などがありましたらおしえてください。

 

中舘

今後は、この職業でしかできないことを楽しみつつ、新しいことにも目を向けていこうと考えています。故郷にも何かしらのカタチで恩返しもしたいですし。もともと人口の少ない市ではありましたが、今はピーク時の約半数になってしまい。人も町も自然も、そのすべてがわたしを育ててくれましたから、さびれてゆく姿を見るのは悲しいことです。人生100年時代、まだまだ疲れた!とは言っていられないです(笑)。

また、2年ほど前からは、東京神保町の「PASSAGE by ALL REVIEWS」という名の共同書店で、一棚の小さなスペースですがオーナーを務めています。この棚には、わたしのこだわりだけで選書された愛しい本たちが並んでいます。棚名は「小料理 つちのこ」。あくまでも夢ですが、いつか小料理屋を開くときにつけようと思っていた名前を先にこちらの棚名につけてしまいました。つちのこって、なんだか幻っぽくて怪しくてよくないですか(笑)? 一棚だけでなく、ゆくゆくは棚を増やして選書にも力を入れてみたいと考えています。神保町付近におでかけの際は、ぜひ立ち寄ってみてください。著名作家の方々の本棚もたくさんあります。

https://passage.allreviews.jp

 

 


 

中館慶子(なかだてけいこ)プロフィール

北海道室蘭市出身。コピーライター。
マスコミ系の専門学校で学んだのち、上京。原宿のデザイン会社にて主に百貨店のカタログ、チラシ、DM制作に携わる。その後、撮影・制作会社等を経て、現在フリーランスで活動。百貨店やアパレルメーカー、通販会社をはじめ、さまざまな業界の企画およびコピーワークに従事。
2022年からは、東京神保町の共同書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」にて一棚オーナーも務める。
仕事のとき以外は、ほぼ、猫のしもべ。趣味は読書と料理と呑むこと。

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