この本を手に取る瞬間まで、恥ずかしながら獅子文六という作家がいたということを知らずにいました。
手に取ったのは、この小説の装丁がサニーデイ・サービスというバンドの
「東京」というアルバムのジャケットによく似ている…というか、
コーヒーカップがあること以外、同じじゃない?とびっくりしたからです。
それもそのはず、わたしたちの青春のアンセムが詰まった名盤「東京」に収録されたラストの曲、
「コーヒーと恋愛」は、この小説をインスパイアされて作られた曲だったのです。なんと!
そして、それが縁で「東京」のジャケット・デザインを手掛けた同じデザイナーさんが装丁を担当して、
1962年に「可否道」というタイトルで文庫化されたこの小説は「コーヒーと恋愛」という新しい形として生まれ変わったのだそうです。
「コーヒーと恋愛」の巻末には、サニーデイ・サービスの曽我部恵一さんが解説も書かれていました。
獅子文六という作家はこの作品で始めて知ったので、色々あとから調べたところ、
大正生まれで、フランスに留学したり、国際結婚したり、
日本に帰国後は文学座を作ったりと、おそらくその時代の最先端を走っていた人なのだと思います。
確かに、「コーヒーと恋愛」を読んでいても、物語の醸し出す雰囲気の中に、
今の時代に読んでいてもわかるほどの、スマートさのようなものが感じられました。
特にラストの強烈な潔さは、ほんとにその時代に書かれたのかな、と思ってしまうほどでした。
この物語に詰まっている普遍的な、おしゃれさ、スマートさを感じたい人は、ぜひ読んでみてください。