ジャンル問わず、様々な種類の小説を読むので、
ときどきはかなりハードな、ダークな内容のものを読み、しかも衝撃的なものだと、
一週間ほど心がダークな方に引っ張られっぱなしになることがよくあります。
ほかにも、現実に嫌なニュースが起こって、そのことをずいぶん繰り返し思い出してしまったり、
日々のすき間に、気持ちが闇に覆われるようなことがあると、
なにかやわらかい、優しいひだまりのような小説が読みたくなります。
たとえば、そういうときには、庄野潤三さんの小説を手に取ります。
この、庭のつるばらは、晩年の妻との暮らしの中で、自宅の庭の園芸に勤しんだり、
はなれて暮らす家族とおいしいものを宅配便でやりとりしたり、
お孫さんがこんな作文を書いてそれがとても良かったこと、
ご近所さんにたくさん焼いた餃子をお届けしたり、
そんな当たり前にあるような日常の情景を、とても丁寧にしたためている小説です。
庭を丹精込めて育て、ずい分前に植えて、
もう咲かないと思っていたつるばらが一輪咲いているのを発見するよろこび。
今日も何事もなく無事に終えられることを感謝しながら、晩ごはんをいただくこと。
そんな何気ない、家庭の中の一場面の中に、ほんとうの豊かさとはなにかを、感じるような気がします。
そして、自分自らの暮らしの中で、いそがしさを理由に、
そういう我が家庭なりの豊かさを見落としていないかと思い返してみたりします。
気持ちをニュートラルに戻したい方、ぜひお手にとってみてはいかがでしょうか?