破戒/島崎藤村

こみちの本棚 25冊目

長らくお休みしていた「こみちの本棚」ですが、また再開させていただくことになりました。
たびたびおやすみばかりしていますが、末長く続けていけるようにあまり気を張りすぎないように書いていこうと思います。

といいつつ、再開直後から取り上げたのは少し重めの内容の作品です。

島崎藤村は、私の故郷である長野県にゆかりの深い作家です。
子供の頃、映画の中で「小諸なる古城のほとり」で有名な千曲川旅情の歌を知り、家族で小諸城址・懐古園を訪れたことはいまだに鮮明に記憶に残っています。
当時は島崎藤村がどんな作家なのかもあまり理解せず、ただなんとなく、千曲川旅情の歌にあるとおり、白い雲が浮かぶ小諸のお城の跡地を親に連れられてぼんやりと歩いていただけですが、それから30年近い年月がたってから、島崎藤村の最初の長編であるこの「破戒」を読むことになりました。
ちょうど「破戒」を読み始めた頃、アメリカではミネアポリスで逮捕中に警察官に殺された46歳の黒人男性の死をきっかけとして、Black Lives Matterといわれる抗議運動が起こっていました。
アメリカほどの多民族国家ではない日本でも、差別問題は全く関係のないことではないと思います。「破戒」の中で描かれる日本の被差別部落の問題にも、アメリカの人種差別の問題にも、見過ごせないほど似た影が存在するように思いました。物語の描かれている時代背景を理由に「昔のこと」「過ぎたこと」だと言い切ってしまうには、あまりにも、見覚えのあるような聞き覚えのあるような言葉や人の態度。きっと、大きな差別につながる小さな棘のようなものは、私たちがいるすぐ近くの世界にも、至るところに散らばっているのだと思います。
あらためて、いつの時代であっても世界のどこにいても、人の心の痛みを想像し思いを寄せていくということが、失ってはならない大切なことだということを、改めて気付かされたような気がします。

破戒
島崎藤村
新潮文庫

(文:野原こみち)

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