ご主人のお店は、深川門前仲町交差点の傍にある、小さなお店。
しかしチェーン店が連なる門前仲町にあっては、その店構えはひときわ異彩を放つ、歴史を感じるお店だ。店内に入いるとさらにその空間に驚かされる。
店の名は「岡満津(おかまつ)」老舗お菓子の名店。今回はこのお店のご主人齋藤さんにお話を聞いた。
初対面では、職人気質の頑固そうな齋藤さんだったが、お話をされ始めると、江戸堅気な人柄に時折みせられる茶目っ気たっぷりな表情が印象的だ。
齋藤さんは昭和22年生まれの68歳。18歳からお父さんの仕事だったこの店を手伝うことになったそうだ。外部への丁稚や見習い経験がなく、お父さんが先生であり師匠だったらしい。実は、お店は創業100年を超え、ご自身もこの道、50年。28歳の時師匠であるお父さんを亡くされて以来3代目として跡を継がれている。「へえー100年もの歴史ですか?」の私の驚きに対して、「100年なんか、まだまだひよっこだぜ。」と当たり前のように言われたのが、驚きだった。
朝6時から、ひとり工場(こうば)に入り、朝方の蒸気ものから手がけ、午後からはどら焼きなどの鉄板ものと、お菓子の特徴に合わせてお作りになるそう。何よりも「鮮度」にこだわり、ひとつひとつ愛情をこめてつくられる、手作りのお菓子である。
「お菓子は、年中必要でね、節句もあれば、お盆、彼岸もある。四季折々に用途があってね。あんまり景気も流行も関係ねえ。」昔はお寺の需要も多かったそうだ。確かに法事などのお寺行事に合わせて、お茶菓子はつきもので、特に神社仏閣の多いこの地の特徴かもしれない。
なるほど、お菓子は、古くからの日本独自の四季の行事や冠婚葬祭とともに育った伝統商品ということなのだ。
店の名物は伝統の「辰巳八景最中」。約90年前、新聞公募で選ばれた辰巳(=深川:江戸城(皇居)から南東方向)の風景が刻印されている。最近は漸く「苺大福」もお作りになりはじめた。
「うちの味を好きだと言ってくれるお客様を大切にする。」と言われるお菓子作りの哲学に、時代や流行に迎合されない歴史文化ある深川でお育ちになった、生活観、人生観を感じる。
齋藤さんに「粋(いき)ってなんですか?」と聞いてみた。「深川の連中は、ちょっとおとなしくてね。小粋(こいき)っていうか、遠慮がちというか・・」「それこそ、上品ということじゃないですか!」の返しに、恥ずかしそうに微笑んでくれた。まさに深川の粋な方である。
東京都江東区門前仲町1-7-10/電話:03-3641-4565