しっかり秋らしくなったが、日本の夏の風物詩と言えば、「すだれ」。今回はそのすだれをお作りになられている豊田勇さんをご紹介する。昭和同年生まれの打歳。パリパリの現役すだれ職人だ。豊田さんは「豊田スダレ店」の3代目。小さいころから、家業のこのご商売のお手伝いをされ、高校卒業時にはひとりでつくりあげるほどの腕前だったらしい。その後大学卒業と同時に稼業をお継ぎになった。以来、半世紀を超える。
「江戸すだれ」とは、手編みによって自然の素材のよさを引き出す手法とのこと。デザインなど何かの付加価値をつける「京すだれ」とは対照的なのだそうだ。
お店はその「江戸すだれ」の高級専門店として、日本橋浜町の料亭に納められたのが始まりと聞く。また、現在は歌舞伎の舞台セットにも納品されている。日本の伝統文化と伝統工芸のシンクロだ。これが江戸の粋ってものか?
豊田さんに「粋、ってなんですか?」と聞いてみた。少しお考えになった後、「ほんものってことですかね。」と微笑みながらおっしゃった。なるほど!
とにかく、クオリティにとことんこだわること、一切の妥協をしないこと。そもそも、すだれの素材は、自然の竹なのだ。本物の竹が相手なのだ。そして「まあ、やせがまんですわ。」さすが自然を相手にされているご苦労と、ほんものへのこだわりの本心を併せ持つ言葉を発せられた。
実は豊田さん、昭和61年に江東区無形文化財、平成20年には東京マイスターに認定された卓越の名人に他ならない。そんな巨匠の素振りを少しもお見せにならず、それこそ新参者の私に丁寧にご対応して頂いた。ご本人こそが、人としてまさに「粋」で「ほんもの」だ。取材を終え、お店を出て少し歩いて振り返ると、新大橋の橋のたもとに漂として立つ石造りでできた店の行まいは、周りの建物と比べ圧倒的存在感を放つ。お店そのものも、「粋」で「ほんもの」だった。
江東区新大橋1丁目3番9号/電話:03-3631-3687