私の本棚からvol.36

世界の終わりの最後の殺人/スチュアート・タートン

世界の終わりの最後の殺人
スチュアート・タートン
三角和代 訳
文藝春秋

 

 

 図書館に住みたいとまで思うほど本が好きで、実際に子供時代からいつもまわりに本がたくさんある環境にいたのにも関わらず、なぜか推理小説だけは苦手意識がありました。最初に推理小説だと認識して読んだ作品が、壊滅的に自分の好みに合わなかったとか、はたまた、ずらりとならぶ推理小説の棚の背表紙の装丁がグッと来なかったとか、いろんな理由が思い当たる気がしますが、あえて自分から距離をあけていたように思います。
 転機が訪れたのは、大人になって出会った主人が大の推理小説好きで、おすすめの数冊を読んでみたこと。「この名作でダメならあきらめるからとにかく読んで」と言われてすすめられたエラリー・クイーンの『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』はもう面白くて面白くて、推理小説が苦手、という意識が即座に吹き飛ぶほどの衝撃でした。そのあとは、子供時代に何度か読んでは挫折していたシャーロックホームズシリーズの面白さもわかってきたし(新訳と旧訳でだいぶ読み易さが変わることがわかりました)日本の素晴らしい作品(江戸川乱歩、綾辻行人、東野圭吾などなど)にも出会い、今では新作が出たら必ず読む贔屓の推理小説作家さんもたくさんいます。
 とくに、数々の世界的に有名な推理小説家がうまれたイギリスは、近年でも目を見張るほど素晴らしい作品を世に送り出す作家が多く、アンソニー・ホロヴィッツ、M・W・クレイヴン、ホリー・ジャクソンなどは新作を心待ちにしています。
 今回紹介するスチュアート・タートンもそんな新進気鋭のイギリスの推理小説家のひとり。2018年に、『イヴリン嬢は七回殺される』という作品がデビュー作だったのですが、これがまた、ほんとうにデビュー作?!と思うほど巧妙で複雑なトリックとタイムループという現代の映画やアニメで多用されるようになったSFの手法を混ぜることで、読んだことのないようなとんでもないミステリーに仕上がっていました。そのあとの『名探偵と海の悪魔』も大好きなのですが、今回は3番目の『世界の終わりの最後の殺人』を紹介します。世界滅亡後に残された数少ない住民たちの中で起こった殺人事件、という、すでに設定からして類を見ない感じの、生き残った人の他は誰もいない世界という広範的密室?な中の物語。ネタバレしては元も子もないので内容はこのくらいにしますが、とにもかくにもより多くの人に読んでほしい作品です。3部作つづいて統一感ある素敵な装丁も大好きです。私はスチュアート・タートンの新作を読み続けたいので、できるかぎり長生きします(笑)。
(文・野原こみち)

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