私の本棚からvol.32

いのちは のちの いのちへ  稲葉俊郎

いのちは のちの いのちへ
稲葉俊郎 著
アノニマ・スタジオ

 

 

 最近、家族の付き添いで病院に行くことが増えました。いつの間にか年をとり、私が中年になれば、親は高齢者と呼ばれる年齢になっていました。感覚としては、私にとっては親はいつまでたってもお父さん、お母さんで、あちらから見れば私はいつまで経っても娘なのですが、日常の細かなサポートや、病院への送り迎え・・・、気がつけば、なんだか、子供の頃にしてもらっていたことをお返しするかのようにやっているんだなと感じることもあります。 
 人間が生きていれば、生老病死は避けられないもの。若い頃、どんなに丈夫であった人でも、年を取れば体は思い通りに動かせず、若い頃と同じように過ごすことができなくなります。そして、長年積み重ねてきた生活習慣や自分の癖が招いた、もしくは家系から引き継がれた病に悩まされるようになる。「老い」ということは仕方のないことですが、時々、そばで見ているものにとっては、とてもはがゆさを感じるものでもあります。
 「若いとき、もっとああしておけば・・・」そんなことを当の本人が口に出したりしたとしても、どうすることもできない、ただ、現状をあるがままに受け入れて、今できる治療や処置をするのみ。
 そして、当たり前ですが、病や老いからくる苦しみや辛さは、どんなに近しい家族でも、代わってあげることができません。ただ、そばに寄り添い、サポートをすることしかできない。頭ではわかっていても、その人が元気な頃を思い出しては切なくなってしまう、そんな「当たり前で仕方のないはがゆさ」が、ときどき波のように襲ってきます。

 家族の老い、病。それに向き合い、寄り添う時間の中で、この本に出会いました。
 著者の稲葉さんは医師でもあります。前作の「いのちを呼びさますもの」は、以前にもここで紹介しましたが、今回は2020年に発行された一冊です。これからの社会の中で、「いのち」に向き合うとはどういうことか、人間がつくってきた共同体、社会という営みの中で私たち人間のもってきた「つながり」。親しい人との「いのち」を通した「つながり」。
 自分も含める生きとし生けるものの「いのち」について、深く考え、この先をどう生きていくか、「いのち」にどう向き合うか。この先の時代を、よりよく生きてゆくために、たいせつなことに向き合える名著だとおもいました。
(文・野原こみち)

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