旧尾崎テオドラ邸を訪ねて

江戸建物探訪

世田谷区豪徳寺。二両編成の小さな電車世田谷線が行き交い、小田急線の沿線でもあるのどかな街は、近年は“招き猫発祥の地”として、国内外から多くの人が訪れています。そんな話題の豪徳寺に程近い住宅街の中に、時代を感じる水色の洋館“旧尾崎テオドラ邸”があります。

 

旧尾崎テオドラ邸とは

世田谷区豪徳寺に佇む、水色の洋館、旧尾崎テオドラ邸。この建物は、“憲政の神様”とも呼ばれていたかつての東京市長・尾崎行雄の旧宅として1907(明治40)年頃に建てられたと長らく伝えられてきました。
しかし、詳しい調査の結果、この館は尾崎行雄の妻である尾崎テオドラ英子がイギリスから日本に渡ってくる際に、テオドラの父である尾崎三良男爵が建てたものではないかと考えられるようになりました。
尾崎三良男爵は娘・英子の来日直後の1887年に洋館の普請を始め、翌1888(明治21)年6月には伊藤博文枢密院議長らを招いての新築祝いを開いています。
その後洋館を譲り受けた英文学者・岡田哲蔵が1933(昭和8)年、この洋館を現在の場所に移設しました。

印象的な水色の洋館は長年地域の人にも愛されていました。以前は部屋貸しのアパートだったことも。

政治家・尾崎行雄の妻となった尾崎テオドラ英子は、翻訳家でもあり、日本と西洋の架け橋となって活躍しました。

入口を入ってすぐの場所にある部屋は、展示会開催中は撮影ブースやサイン会などが行われます。

 

取り壊しの危機

この土地で親しまれてきた洋館ですが、2019年、取り壊しの危機に直面しました。
この洋館を愛していた漫画家・山下和美さんが発起人となり、たくさんの方の熱い支援もあり、「一般社団法人旧尾崎邸保存プロジェクト」が設立。共同代表・笹生那実さんとともに、歴史ある洋館を100年先まで残していこうと動き出しました。
長い改修工事期間を経て、2024年3月1日、ついに明治から残る水色の洋館は、喫茶・ギャラリーを擁する新しい豪徳寺の名所として生まれ変わりました。

発起人の漫画家・山下和美さんの呼びかけで、たくさんの漫画家の方が、保存プロジェクトに支援されたそうです。

 

建築について

旧尾崎テオドラ邸の建築様式は19世紀後半に日本に流入した下見板コロニアルと呼ばれるコロニアル様式が基盤となっています。
コロニアル様式とは主に木造で、板を横に貼った壁・大きな正面のポーチ・大きな窓とベランダが特徴的な建築様式で、特に植民地時代のアメリカで発達しました。
元々アメリカでは木造下見板張りの簡便な住宅様式であったジョージアン・スタイルの下見板コロニアルが、日本では「西洋館」として上流階級に好まれたことを示す遺構であり、こうした洋館が都内で現存する姿を見られるのは稀なことです。

明治時代にはめずらしかった様々な西洋風の意匠が、階段の手すり部分など細かいところに見ることができます。

コロニアル様式の特徴のひとつである、大きな窓。

二階のギャラリーは漫画を中心とした展示をおこなっています。2022年に20年の歴史に幕を閉じた、荒川区のぬりえ美術館から譲り受けた什器も見どころのひとつ。

 
 

喫茶室

また、1階奥の喫茶室では、東西の文化を繋いだテオドラにちなみ、彼女が生きた時代の英国の食文化に着想したオリジナルのお菓子や、専属パティシエが作るケーキなどが楽しめます。
大きな窓からおだやかな光が入る席で、本格的なアフターヌーンティーをぜひ。*アフターヌーンティーは要予約

旧尾崎テオドラ邸オリジナルブレンドティーとともに、こだわりの手作りお菓子がいただけます。

お友達とおしゃべりを楽しみながら、優雅なアフターヌーンティーを。

 
 

ミュージアムショップ

1階には、展示の関連グッズや、旧尾崎テオドラ邸プロジェクトの漫画、オリジナルグッズなども販売されています。漫画好きな方にはたまらない本や、ここでしか手に入らない貴重なグッズも・・・。

旧尾崎テオドラ邸オリジナルグッズの数々も注目です。

 
 

展示会のおしらせ

『能登半島・台湾被災地支援チャリティー展』
同時開催:旧尾崎テオドラ邸チャリティー作品展

1月1日能登半島、4月3日台湾を襲った地震によって被災された方々を少しでも支援するために旧尾崎テオドラ邸では仲間の漫画家たちから色紙をご提供頂きオークションを開催して落札金額から経費を除いた全額を能登と台湾に送ることにしました。豪華漫画家たちの肉筆原画が一同に並ぶ特別な展示会です。ぜひご来館ください。

 
 

旧尾崎テオドラ邸から上品倶楽部読者の皆さまへ

取り壊しの危機にあった旧尾崎テオドラ邸はたくさんの方の支援により守られ、新たな100年に向け歩み始めました。「建築」「展覧会」「喫茶室」と3つの楽しむポイントがあり、それぞれの視点で満喫することができる施設です。喫茶室では展示に合わせてスペシャルメニューが登場し、ショップには限定グッズが並びます。明治から残る建築の細部も見どころが満載です!歴史を感じる非日常空間でゆっくりとした時間をお過ごしください。

 
 

編集後記

世田谷区の住宅街にひっそりと佇む水色の洋館「旧尾崎テオドラ邸」。
古い住宅も立ち並ぶこの界隈ですが、渋谷や近くの沿線駅周辺の開発同様に、少しずつ新しい景色に変わり続けています。新しいコミュニティが生まれ、街が活性化していく事はいいことかもしれませんが、古くからそこに存在していた町になじむ景色も同時に残ってほしい、とも願っていました。

嬉しいことに、ここ「旧尾崎テオドラ邸」は、漫画家・山下和美さんをはじめ、多くの有志の方々により、地元住民も巻き込んだ旧尾崎邸保存プロジェクトとして、保存・再生される事になりました。

これからも歴史的建造物のもつ魅力と日本のマンガ文化を見つめていきたいと思います。

 
 


旧尾崎テオドラ邸

〒154-0021 東京都世田谷区豪徳寺2-30-16

入館料:1,000円 /アフターヌーンティー付きギャラリー入場チケット 5,950円 
*事前にウェブチケットの購入が必要です。詳しくはホームページから
開館時間:10:00〜18:00
休館日:木曜日(その他展示入替休館あり) ご来館前にホームページでご確認ください
WEBサイト: https://ozakitheodora.com/

<アクセス>
小田急線「豪徳寺」駅から徒歩9分
東急世田谷線「宮の坂」駅から徒歩5分

*駐車場、駐輪場はありませんので、お車、自転車でのお越しはご遠慮ください。

 

 

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