角川庭園・幻戯山房〜すぎなみ詩歌館〜を訪ねて

江戸建物探訪

JR中央線荻窪駅から東南の住宅地には、いくつかの自然豊かな庭園が存在します。
その中でも今回は四季折々の草花とともに、俳句や短歌が楽しめる庭園として知られている角川庭園・幻戯山房を紹介します。時代の趣を感じる、近代数寄屋造の邸宅とともに、一年を通じ様々な花や実の季節ごとの表情を楽しみながら、豊かな時間の流れを感じることができます。

 

角川庭園・幻戯山房とは

杉並区立角川庭園は、俳人で角川書店の創設者である角川源義氏の旧邸宅を、杉並区が遺族から寄贈を受けて改修したものです。平成21(2009)年5月10日に区立公園として開園しました。建物は昭和30(1955)年竣工の木造二階建瓦葺近代数寄屋造り(※)で、平成21(2009)年11月に国の登録有形文化財に登録されました。
庭園は建設時の源義の考え方を受け継ぎ、俳句に相応しい野趣あふれる自然な庭園を維持しており、四季に通じて樹木の花や草花を楽しむことができます。建物は木造2階建ての近代数寄屋造り(※)で、幻戯山房~すぎなみ詩歌館~(げんぎさんぼう すぎなみ しいかかん)として一般開放されるとともに、句会・茶会などにも利用されています。

四季折々の草花が楽しめる庭園。

句会、講座、華道などの用途に貸し出される詩歌室。

玄関を抜けて左にある、旧応接間を改装した展示室。

 

俳句心を誘う庭園

角川庭園に着いたら、まずは石畳の小径(こみち)を歩いてみてください。そこには詩歌館から見る風景とは違う庭園の姿があります。距離にして30メートルほどの散歩道ですが、さまざまな草木が育ち、林の中を歩くような趣きがあります。途中、小さなお地蔵さんが皆さんを見守っています。

石畳の小径を抜けると開かれた空間が現れます。建物正面の中央の芝庭の上を散歩しながら、すっきりと手入れの行き届いた景色を堪能してください。
茶室前方には手水鉢(ちょうずばち)があり、竹筒から滴る水滴による水紋が美しく広がります。

その横にある水琴窟(すいきんくつ)は、地中の空洞に水音が響くように作られたもので、水を流すと深淵な音色が味わえます。また、そばには源義氏が長野県の霧ヶ峰で詠んだ句碑も置かれています。
俳句好きの方はもちろん、今まで俳句とは縁がなかった人も、角川庭園を訪れて一句たしなんでみてはどうでしょうか。句の題材を探しに季節ごとに訪れてみたくなる庭園です。 

建物の最奥にある四畳半の茶室に二畳の水屋がついています。

茶道具は源義夫妻が愛用したものも含み、施設利用者に貸し出し可能。(施設利用については要予約)

 

近代数寄屋造の建築

建物は近代数寄屋建築(※)というスタイルで、現代のモダン住宅の先駆けともいえるシンプルで粋な建築。どの部屋も庭を望む南側の開口部を大きくとり、四季折々の植物を楽しめます。また、建具(障子、ガラス戸、網戸、雨戸)は全て壁の中に引き込める形に設計されています。1階にある「詩歌室1」は、もともと洋風の食堂と和風の居間だったところを、改修しで1つの広い部屋にしました。この部屋の全ての建具を壁に引き込むと、庭と部屋とが一体化したような開放的な大空間が生まれます。同じ階にある四畳半の茶室は、床柱と天井に竹を使って、しゃれた庵(いおり)の雰囲気を演出しています。茶道具の貸し出しサービスもあり、利用者に人気の茶室です。詩歌室や展示室の天井も、よく見るとその部屋に合わせたデザインで木材がきれいに加工されているのが分かります。
現在、公開していない2階には、子供部屋だった洋間と、客室だった和室があります。和室はふた間続きで、欄間の上部を少し開け、中央を鉄筋で吊って軽やかに見せています(一番下の写真参照)。欄間の透かし彫りは、裏と表の絵柄を変えて彫ったもので、近代的な造りの中に昔ながらの伝統の技が生かされています。

(※)近代数寄屋(新興数寄屋)=建築家吉田五十八らによる近代主義(モダニズム)の影響をうけた和風様式、シンプルさを尊ぶ

近代数寄屋造りの特徴のひとつ、外柱。

建物の外との境になる雨戸・網戸・硝子戸・障子は、全て引き込み式に壁内に収納され、開放的なつくりなっています。

茶室前方にある手水鉢。

つくばいから水を流すと心地よい音色が楽しめる水琴窟。

水琴窟のそばにある源義氏が霧ヶ峰で詠んだ句が描かれた句碑。

 
 

季節の草花

既存の樹木と南斜面の地形を生かし、多くの草花と400本の樹木が植えられています。
一年を通じ様々な花や実の四季折々の表情を見ることができます。

春に咲く樹木と草花:セイヨウシャクナゲ、ハナミズキ、シャガ、他

夏に咲く樹木と草花:サルスベリ、キキョウ、タイサンボク、他

秋に咲く樹木と草花:サネカズラ、フジバカマ、ススキ、他

冬に咲く樹木と草花:フクジュソウ、センリョウ、オウバイ、ハクバイ、ユズ、他

 
 

 
 

角川庭園・幻戯山房から上品倶楽部読者の皆さまへ

角川家より杉並区に土地、建物を寄贈いただいた折、角川源義氏のご長女辺見じゅんさん(歌人・作家)よりこの施設を詩歌の興隆のため有効に利用してほしいとの強い要望をいただきました。それから15年、今では、俳句はもとより短歌、川柳など30を超える団体、グループの方々が角川庭園を利用し、楽しんでいただいております。季節ごとに変化する庭園を眺めながら、また散策しながら、句会、歌会、吟行会などが催されております。ぜひ皆様一度おいで下さり、野趣あふれる自然を楽しみながら、一句詠んでみてはいかがでしょうか。

 
 

編集後記
東京には多くの庭園がありますが、角川庭園は、比較的小規模の穴場的なスポットです。大きな自然公園とはまた違い、詩歌をたしなむ方々が創作する場として最適な、その季節ごとの違った自然の美しさを感じることができる庭園とそれを眺めるのにぴったりな数寄屋造りの邸宅が、長く多くの人の創作の力となってきたことがよくわかりました。

静かな心で庭園の樹木や草花に触れながら、四季とともに生き、自然の移り変わりに目を向けてきた、日本人の心を失わないようにしていきたいと思いました。

 
 


角川庭園・幻戯山房〜すぎなみ詩歌館〜

〒167-0051東京都杉並区荻窪3丁目14番22号

入館料:無料
開館時間:9:00~17:00
休園日:毎週水曜日、12月29日から1月1日
TEL/FAX: 03-6795-6855

<アクセス>
JR中央線・東京メトロ丸の内線 荻窪駅南口から徒歩15分(約1km)

 

 

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