私の本棚からvol.27

月と散文 又吉直樹

月と散文
又吉直樹
KADOKAWA

 

 

本を読むということは、誰かの想像した物語の中に潜り込むことであり、会ったことのない先生の講義を受けることであり、誰かの人生を追体験することでもあります。文章やストーリーの巧みさで、素晴らしい世界に導かれるという読書体験も好きですが、時折、著者の人間性そのものを垣間見ているかのような作品に出会うこともあります。

又吉直樹さんはお笑い芸人初の芥川賞受賞という快挙を成し遂げた、私がここで紹介するまでもない著名な方ですが、本当にその筆致は素晴らしく、繊細であり情熱的、そして、どんなときも人を楽しませるという芸人さんらしい心意気が感じられる作品です。
今回紹介する「月と散文」は、同じ名前の会員制サイトで連載していたエッセイをまとめた一冊。子供の頃の記憶や、コロナ禍の息が詰まるような自粛生活の経験、家族のことなどが書かれています。
個人的な話ですが、私は又吉さんと同じ年齢で、おそらく同じ年頃で上京しているので、子供の頃や若い頃の話が書かれていると妙に親近感が湧いてしまいます。
又吉さんは、インタビューなどでたびたび、子供の頃からたくさんの本を読み、様々な本に救われてきたと話しています。また、又吉さんが色々な場面で発する多くの言葉の中に、他の誰かがうみだした創作物に対する強いリスペクトを感じるので、人から人へ連綿とつながる“創作のバトン”の力を、きっと強く信じている人なんだろうな、と勝手に想像しています。
とにかく、一冊のどこを読んでも、又吉さんの人間性を感じる本なので、クスッと笑ったり、じーんとしたりしながら、友達からの手紙を読んでいるような感覚で大切に何度も読み返しています。(私はこの一冊が好きすぎて函入りの愛蔵版まで手に入れてしまいました。)

エッセイを読むことは、別の誰かの視点で世界を見ること。
自分ではない誰かの、世界との向き合い方を知ることで、自分の中にあたらしい視点がうまれるような気がしています。

(文・野原こみち)

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