ルバイヤート
オマル・ハイヤーム 著
エドワード・フィッツジェラルド 英訳
竹友藻風 邦訳
マール社
これまでの人生の中で、ほとんど日本から外の国に出たことのない私にとって、本やテレビや映画は世界を知るために大切な役割を担っています。
どこかの国の文化を知る上でとても飲み込みやすいのがその国に住んでいたことがある作家の随筆を読むこと。そしてそれが日本人であれば、日本とその国の対比をわかりやすく文章化してくれることが多いので、なお有難しというところ。もちろん小説から読み取ることもできますが、時代背景や、その国の民族が信仰している宗教など、よくよく調べてみないと理解ができないことも多くあります。
アメリカやヨーロッパの国々、日本から近いアジア圏の国については、その国を舞台にした映画なども多かったり、身近な人が旅行や留学に行った話を聞いたりと、自分の中でその国に対して理解を深めるためのパズルのピースが比較的集まりやすいと思います。
しかしある時、中東の国々に関しては、頭の中のイメージがかなりぼんやりしていることに気がつきました。そういえばと、本棚をふりかえってみると中東の作家の本はほんの少ししかありません。
国の名前を言われたらなんとなくどこにあるかはわかるものの、その国の人がどんな暮らしをしているのかは、はてしなく霞がかっているようで、ぼんやりとした印象。
少しずつでも理解を深めていきたいな、そんなふうに思っていた頃、この美しい詩集を見つけたのでした。
ルバイヤートは、中世ペルシアで生まれた四行詩集で、九世紀なかば以降のペルシア文学の中でペルシア詩最古の独自の詩形といわれています。著者のオマル・ハイマールは、数学、天文学、医学、語学・史学・哲学を究めた学者で、ペルシアのレオナルド・ダ・ヴィンチと呼ばれるほど才能に恵まれた人だったそうです。
このルバイヤートがイギリスの詩人エドワード・フィッツジェラルドによる英訳でヨーロッパに広まり、やがて海を渡って日本でも翻訳されて出版されました。
ここで紹介するマール社の一冊は、ロナルド・バルフォアの美しい挿絵にも目を奪われます。ミステリアスで繊細な挿絵とともに中世ペルシアで生まれた四行詩の不思議なリズムに魅了されます。
この詩集にふれたことで、理解が深まったのかと聞かれたら、さらに「知りたいことが増えた」と答えるでしょう。ぼんやりした霞がかったその国のイメージに、無数の煌めきが増え、またさらにその奥に手招きされているかのような、魅力的な引力に惹きつけられていきました。結局、ルバイヤートをきっかけとして、私はさらなる読書の旅に出ることになるのでした。その話はまたの機会に。
(文・野原こみち)