私の本棚からvol.22

くらのかみ 小野不由美

くらのかみ
小野不由美
講談社

 

 

 目に見えないもの、不思議なもの、妖怪、幽霊、もののけ・・・。怖いもの見たさだったのか、そういう不思議なものに興味津々な子供時代を過ごしました。
 わたしの実家には、二階建ての古いお蔵があって、得体の知れない(と子供には思えた)色々なものが仕舞われていました。我が家だけではなく、まわりには同じように古い家が多かったので、近所の友達の家にもたいがい同じような蔵がありました。どこの家の蔵もひんやりとしていて重たい扉で中は真っ暗。あまり好き好んで子供が入りたがるような場所ではありません。わたしの父は子供の頃に何か悪さをすると、この蔵に閉じ込められたと言って笑っていましたが、もし自分が閉じ込められたらと考えると笑い事じゃないなと思っていました。(幸い、一度も閉じ込められることはありませんでしたが)
 ある日、友達の家に遊びに行った時、その友達のやんちゃな弟がお父さんに蔵に放り込まれそうになっていて、重い扉の前の柱にしがみついて、わんわん泣いている姿を目撃しました。なにかよっぽど怒られるようなことをしたのか、真っ赤になって叱っているお父さんに、もう二度としませんと約束しているようでした。やはり、わたしの世代になっても、悪戯っ子にお蔵の効果は絶大なようでした。
 不気味に感じていたお蔵ですが、少し心惹かれる気持ちもありました。恐らく、座敷童か何かの妖怪に興味を持ったときだったと思いますが、そういう不可思議なものがいるのだとしたら、なんとなく我が家のお蔵は居心地がいいのではないか、と思ったのです。それからしばらくは、お蔵にひとりで入って何か起きないか試してみたりしていました。土間の冷たい床に触ったり、鼻をヒクヒクさせてお蔵に漂う独特の香りを嗅いでみたりしていましたが、結局わたしが望んでいたような不可思議なものは一度も出てくることはありませんでした。しかし、ちょっと怖くて心惹かれる思える理由は、少し納得しました。ときどき、なんだかお蔵そのものが生きているかのように思える瞬間があったからです。私たち家族の色々なものを体に入れて静かに生きている物言わぬかみさまのような。
 
 この「くらのかみ」は、数々のホラー、ミステリー作品を手がけた小野不由美さんの児童向けミステリー小説です。後継者を定めるべく集められた親戚同士の子供たちが、体験した怪異を解くべく奔走します。大人でも楽しめる本格ミステリー、暑い夏の読書にぜひ。
 
(文・野原こみち)

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