旧前田家本邸を訪ねて

江戸建物探訪


 

東京大学駒場キャンパスがあり、それが駅名にも冠されている京王井の頭線駒場東大前駅。付近には東大のキャンパスをはじめ、高等学校や中学校など多くの教育機関がありますが、駅から南西には駒場野公園、北西には駒場公園という緑あふれる大きな公園が存在しています。
今回は、その駒場公園内にある、英国風カントリーハウスのような洋館「旧前田本邸」を訪ねました。

 

旧前田家本邸とは
 
旧前田家本邸は、旧加賀藩主前田家16代当主の公爵前田利為(としなり)候(1885〜1942年)の居宅として昭和3(1928)年から昭和5年にかけて建設されました。
滞欧経験が豊富で駐英大使館附武官も務めた利為候は、「欧米諸国を歩いて常々残念に思うことは、わが国には外国からの貴賓を迎え得る邸宅がないということ」だと周囲に語っていたといいます。そのため、洋館は家族の生活の場であるとともに迎賓館としても利用できるよう、晩餐会が開ける大きな客室や食堂がある洋館と、外国からの賓客に日本文化を伝えるための和館を併設して設計されました。
四季折々の園遊会やパーティーの折に邸宅を訪れた人々は、田園の野趣が残る駒場の地に建つ英国風の重厚な洋館と、瀟洒な和館の佇まい、庭内を彩る外国製の調度品や前田家伝来の品々に目を見張ったといいます。
昭和17年に太平洋戦争に出征していた利為候が戦死した後、邸宅は中島飛行機の手に渡ります。戦後はアメリカ極東軍空軍司令官の官邸として連合国軍に接収され、内装などに一部改変が加えられました。接収解除後は国と東京都の分割所有となり、現在は目黒区立駒場公園として敷地と和館は目黒区が、洋館は東京都が管理しています。
紆余曲折の歴史を経ながらも、家族の邸宅が広大な敷地とともにほぼそのままの形で残されているのは日本国内でとても珍しく、昭和初期の上流華族の生活をうかがい知ることができる貴重な文化財として、平成25(2013)年に国の重要文化財(建造物)に指定されています。

玄関横のサロン(写真提供:東京都教育委員会)

 

サロンからつづく第一応接室(写真提供:東京都教育委員会)

 

洋館の内装
重厚感のあるノッカーのついた玄関扉を開けると、新緑の蛇紋石の柱、チーク材の梁、寄木細工の床、シャンデリアで彩られた、広々とした玄関広間となっています。ここは賓客をお迎えするために設られた場でした。
1階はお客様をおもてなしするためのスペースとなっていたそうです。階段のある広間は洋館の「顔」であり、彫刻の施された豪華な階段が目を引きます。晩餐会が行われる大食堂が1階の諸室のうちでは最も格式が高く、最大で26人までのディナーができたといいます。大食堂の周囲には大小客室や応接室が配され、用途によって使い分けがされていました。
 

晩餐会のための部屋 大食堂(写真提供:東京都教育委員会)

 

マントルピースには前田家の加賀梅鉢の家紋を模した模様が入っています。

 

2階は侯爵家の私的な空間で、侯爵の書斎や、寝室、子供たちの居室などの、家族の私室が並んでいます。平成28(2016)年から30年にかけて行われた保存修理工事では、書斎、次の間、寝室について、連合国軍接収期に失われた内装を復原し、前田家が使用していた当時の姿に近づけたそうです。

 

ステンドグラスから光が差し込む2階の階段広間(写真提供:東京都教育委員会)

 

家族や親族が集まる居間でもあった夫人室は、紫を基調とした華麗な雰囲気です(写真提供:東京都教育委員会)

 

長女居室(写真提供:東京都教育委員会)

 

邸宅のそこかしこに施された美しい彫刻も見どころのひとつ。

 
 

芝庭をのぞむバルコニー
 
現在駒場公園として開園されている敷地内の全体配置は前田家が居住していた頃の姿を現在も残しています。
当時は、洋館の南側は広大な芝生地でさらに芝生の南側には築山もあり、家族は乗馬をしたり、スキーやゴルフなどのスポーツを楽しんでいたそうです。また和館に付属する日本庭園には四季折々で姿を変える様々な樹木も植えられており、園遊会などの催事会場にもなっていました。周辺の園路には灯篭なども点在しています。
正門から洋館玄関までの長いアプローチ、洋館の南に広がる芝庭、和館に日本庭園と、大邸宅にふさわしい造園計画といえます。
芝庭の周囲には桜の木が植えられており、春には美しい桜景色がみることができます。

芝庭から見た洋館の外観(写真提供:東京都教育委員会)

 

春になればベランダからは美しい桜を見ることができます(写真提供:東京都教育委員会)

 

芝庭から洋館の外観をながめていると2階バルコニーにライオンの像が座っているのが見えました

 
 


編集後記
小説の世界のような上級華族のお城のようなお屋敷に訪れてみて、あたらめて当時の華やかな生活が目に浮かぶようでした。イギリスのドラマに出てくるような洋館は、重厚で美しく、結婚式の写真の撮影などに使われるというお話にも納得でした。ドレスを着てお屋敷内を歩いたら、お姫様になった気分を味わえそうです。
現在駒場公園となっている邸宅の芝生のお庭は、ちいさいお子さんたちの良い遊び場になっているようで、私たちが訪れている間にも、いくつもの保育園の子供たちが保育士さんに手を引かれながら訪れていました。都心では貴重な自然あふれる公園なので、これからも憩いの場として、たくさんの人の心を和ませてほしいと思いました。

 


旧前田家本邸

所在地:目黒区駒場4-3-55 目黒区立駒場公園内
<アクセス>
・京王井の頭線「駒場東大前」駅(西口) 下車徒歩8分
・小田急線「代々木上原」駅 下車徒歩15分
・小田急線「東北沢」駅 下車徒歩13分
TEL:03-3466-5150(洋館) 03-3460-6725(和館)
公開時間:洋館 午前9時~午後3時30分 和館 午前9時〜午後4時
     (駒場公園の閉園時間は午後4時30分ですのでご注意ください)
一般公開日:洋館 水曜〜日曜・祝日(年末年始を除く) 和館 火曜〜日曜・祝日
見学料:無料

WEBサイト: 目黒区のホームページより

 

 

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