池袋駅と目白駅の間、山手線の線路の外側に位置する住宅街の中に、自由学園明日館はあります。1997年に国の重要文化財に指定され、その後文化財として一般に解放されていますが、設立当初からこの場所に関わる多くの人に愛された歴史のある建物でもあります。
今回はその自由学園明日館に伺い、広報担当の岡本さんにお話を伺いました。
自由学園の誕生と明日館の建設
自由学園は、羽仁吉一、もと子夫妻のより1921年(大正10)に女学校として設立されました。知識の詰め込みではない、新しい教育を実現させるために作られた学校で、生徒に自ら昼食を調理させるなど、生活と結びついた教育は、大正デモクラシー期における自由教育運動の象徴とも言えます。
明日館(みょうにちかん)は、創立した自由学園の校舎として、アメリカが生んだ建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの設計により建設されました。
明日館建設にあたり羽仁夫妻にライトを推薦したのは遠藤新。帝国ホテル設計のため来日していたライトの助手を勤めていた遠藤は、友人でもある羽仁夫妻をライトに引きあわせました。
夫妻の目指す教育理念に共鳴したライトは、「簡素な外形のなかにすぐれた思いを充たしめたい」という夫妻の希いを基調とし、自由学園を設計しました。
女学校当時は毎朝の礼拝の場として使われていたホールは、南面に特徴的な幾何学模様の窓を配しています。大きな窓から光が入り、明るくてあたたかい雰囲気に満ちている場所です。
ライト建築の特徴がよく表れている食堂は、外光を巧みに取り込み、幾何学的な装飾を用いて変化に富んだ内部空間となっています。
建物の中央部分に位置する玄関は天井が低く作られていますが、これはトンネル効果と言われ、続く隣のホールに入った時に、広い空間をより広く感じられるような狙いで設計されたものです。
国の重要文化財に
生徒数の増加により、昭和9(1934)年に学校機能は東京都東久留米市に移転しました。移転後、この建物は自由学園と日本の教育の明日を託し、羽仁夫妻から「明日館」と命名されることになります。幸いにも、関東大震災、太平洋戦争の被害も免れ、卒業生の諸活動の拠点や、戦後には自由学園生活学校の校舎として使われました。
平成9(1997)年に、明日館は国の重要文化財に指定され、国および都、区の補助事業による保存修理事業を行いました。
平成11 年(1999)から平成13(2001)年9月に中央棟、東西教室棟の3棟を、また平成27(2015)年1月から平成29年(2017)7月に講堂の保存修理(耐震対策)事業を行い、全4棟が竣工当時へと復原されています。
「建物は使ってこそ維持保存ができる」と考え、明日館は使いながら文化財価値を保存する「動態保存」のモデルとして運営されています。
ホールの壁面に描かれた壁画は、自由学園創立10周年を記念し、旧約聖書「出エジプト記」の一節を生徒たちが協力して描いたもの。長い間漆喰の下に埋もれていたものが、修理工事の際に現在の生徒の手で蘇りました。
教室に置かれた特徴的な椅子は、旧帝国ホテルで使用されていたピーコックチェアにも似た、六角形の背に水平のスリットが特徴的です。ライトもしくは遠藤がデザインしたと考えられます。
建物について
明日館の建築全体として、「プレーリーハウス(草原様式)」「シンメトリー」「幾何学模様」など、一連のライト作品の意匠を象徴しています。日本に残るライト建築の特徴である大谷石が多用され、建物の基本構造が現在の2×4工法の先駆けと言われるなど、他の日本建築には見られないライトの作風を示しています。
自由学園明日館の見どころ
貴重な国の重要文化財としても訪れる価値はありますが、なによりも、実際に訪れてみると、創立当時からたくさんの生徒たちに愛され続けた場所だということが感じられます。
日本に残るフランク・ロイド・ライトの意匠建築を堪能できます。
通路の天井にある幾何学模様の天窓。
自由学園明日館から上品倶楽部読者の皆さまへ
自由学園明日館は、大正から昭和初期にかけて女学生(現在の中高生にあたる年齢)たちが学んだ校舎です。来年2021年で創立100周年を迎えます。
池袋という巨大ターミナルからほど近いロケーションでありながら、ここ明日館の建物に一歩入っていただくと、時の流れがふっと変わるのを感じていただけると思います。
建築家フランク・ロイド・ライトが工夫を凝らした空間で、心に響いてくるのはどんなことでしょうか。乙女たちの気分を想像しながらゆっくりお過ごしください。おいしいコーヒー・紅茶と焼菓子をご用意してお待ちしております。
ご案内
明日館では年間を通して様々なイベントを行なっています。
季節を感じる桜見学会や夏の親子イベント、かつて生徒たちが昼食を囲んだ食堂で気軽にランチを楽しむ明日館レストラン。
移りゆく季節と共に建物をお楽しみください。
講堂 外観
講堂 内観
編集後記
山手線池袋からほどに近い場所にこんなに素敵な建物があることを今回初めて知りました。世界的に有名な建築家フランク・ロイド・ライトの設計で、建物自体の意匠の美しさや魅力もありますが、元々は女学校の校舎だったこともあり、どこにいても柔らかく暖かな雰囲気だったことが印象深いです。きっと、自由学園の校風にあるように、多くの生徒たちが自由に生き生きと学んでいたのだろうと感じました。
自由学園明日館 外観
自由学園明日館
<アクセス>
JR池袋駅メトロポリタン口より徒歩5分、JR目白駅より徒歩7分
駐車場なし
所在地: 〒171-0021 東京都豊島区西池袋2-31-3
開館時間(30分前までの入館):通常10:00~16:00 夜間見学日18:00〜21:00(毎月第3金曜日) 休日見学日10:00〜17:00(毎月1日程度)
休館日: 毎週月曜日(月曜祝日または振替休日の場合はその翌日)、年末年始、不定休有、HPなどで要確認
連絡先: Tel. 03-3971-7535 Fax. 03-3971-2570
WEBサイト: https://www.jiyu.jp/