人の手仕事から生まれたものは、なんとも言えない魅力があります。
子供の頃の記憶ですが、私の育った土地は田舎のちょっとした避暑地のような観光業もそれなりに盛んな場所でした。その当時、両親が働いていたのも、観光で訪れた人をおもてなしする旅館で、小学校に上がる前までは、その旅館の中で長い時間を過ごしていました。
その旅館の敷地内に、もっとも来客が増える盛夏のみに開店する楽焼のお店があり、私はそこが大好きでたまりませんでした。
絵付けをされるのを待っているまっさらな素焼のお皿やカップが行儀よく棚に並んでいる様子。お客さんが絵付けをするテーブルの上は、色とりどりの絵の具にたくさんの筆。
その場所を何もせずに眺めているだけでもなんだか幸せな気持ちになったのですが、今思うと、あれは私が人生で初めて足を踏み入れた「ものづくりの場」だったのです。
手仕事によって生み出されるものや、それが生まれる場所に、強く惹きつけられるのは今も変わりません。旅先の民芸品屋さんに立ち寄り、強烈に心を掴まれてしまって動けなくなるなんて経験も多々あります。
十年以上前に伊豆白浜の民芸屋で買った木彫りの梟は、今も大切に我が家の本棚の片隅に置かれています。
美術品や骨董品として著名な作家の価値があるものを大切に蒐集していくということもそれなりの楽しさがあるとは思いますが、逆に一般的には価値がさほど高くない者に対し、自分にしかわからないような魅力を感じて、長く大切にそばに置いていきたいと思う気持ちがあります。
今回ご紹介するのは、「民芸」という言葉を提唱した柳宗悦さんが創設した日本民藝館の監修による一冊「民藝の日本」。日本民藝館をはじめとする日本各地の民芸館が所蔵する民芸品の逸品が、紹介されています。その写真を眺めているだけでも楽しいのですが、その解説をじっくりと読んでいるとなるほどと思うことや、写真を見るだけでは気づかなかったことを知ることができて、知識として蓄えることができます。
自分の心惹かれるものに出会う喜びもありますが、どうしてそれに自分が心惹かれているのかを、さらに突き詰めて考えていくと、今まで知らなかった自分の新たな一面を発見できる機会になるかもしれません。
(文・野原こみち)