東京大学駒場キャンパスからほど近い場所、京王井の頭線の駒場東大前駅から北西に路地を抜けると、伝統的な趣きを持つ日本家屋が見えます。こちらは日本を代表する思想家・柳宗悦が設立した日本民藝館です。何度も足を運ぶファンが多く、開館以来たくさんの人を惹きつけてやまない美術館といわれています。今回、編集部でも日本民藝館を訪れ、その魅力に迫ってみることにしました。学芸員の古屋さんにお話を伺いました。
日本民藝館について
日本民藝館は、「民藝」という新しい美の概念の普及と「美の生活化」を目指す民藝運動の本拠として、1926年に思想家の柳宗悦(1889-1961)らにより企画され、実業家で社会事業家の大原孫三郎をはじめとする多くの賛同者の援助を得て、1936年に開設されました。「民藝」とは、“無名の職人達が作った民衆的工芸品”という意味合いを持ちます。柳宗悦の審美眼により集められた、陶磁器・染織品・木漆工品・絵画・金工品・石工品・編組品など、日本をはじめ諸外国の新古工芸品約17000点が収蔵されており、その特色ある蒐集品は国の内外で高い評価を受けています。
本館の入り口を入ると大きな階段が目に入ります。
本館1階展示室
作品の展示について
当館の所蔵品のほとんどは、柳宗悦の審美眼を通して蒐められたもので、日本および諸外国の新古諸工芸品約17,000点を数えます。中でも、柳宗悦が感銘を受け、民藝運動に邁進するきっかけとなった朝鮮時代の陶磁器は、約600点収蔵。国内屈指の質と量を誇っています。その他、丹波・唐津・伊万里・瀬戸などの日本古陶磁、東北地方の被衣(かつぎ)や刺子衣裳、アイヌ衣裳やアイヌ玉、大津絵、木喰仏、沖縄の陶器や染織品、英国の古陶スリップウェアなどは、質量ともに国の内外で高い評価を受けています。また、民藝運動に参加したバーナード・リーチ、濱田庄司、河井寛次郎、芹沢銈介、棟方志功ら工芸作家の作品も収蔵しています。
染付辰砂鯉形水滴 〈そめつけしんしゃこいがたすいてき〉
分院里窯 朝鮮時代〔朝鮮半島〕19世紀後半
6.8 x 10.6cm
三河万歳衣裳裂〈みかわまんざいいしょうぎれ〉
大麻、型染 軸装〈3幅のうち〉 三河 江戸時代〔日本〕 17世紀
43.0 x 56.0 cm
建物について
日本民藝館の館内は、展示する作品や調度品が映えるように計算し尽くされ選ばれた建材や什器が置かれています。壁面に使われている壁紙、障子の意匠、館内に置かれる椅子やテーブルも、民藝品の美しさと調和するものが配置されています。また、柱や梁などの木材部分はすべて角が面取りされ、柔らかな雰囲気を感じられるような造りになっています。
日本民藝館の見どころ
民藝品は、市井の人のなかから生まれた美しさであるとともに、それぞれが、人々の生活に寄り添う役割を持っているものが多く、そのため日本民藝館は美術館でありながらも、どこか懐かしい雰囲気がある場所です。入れ替わりで展示される所蔵品はもちろん、その館内の建築と、展示される作品の調和を楽しめるということも魅力のひとつでしょう。ぜひ、自分の心の琴線に触れる民藝品を見つけてみてください。
日本民藝館から上品倶楽部読者の皆さまへ
日本民藝館では、作品を知識や情報ではなく、「じかに観る」、「直観」ということをとても大切にしています。実際に来館して、作品を皆さまの眼と心で楽しんでいただければ嬉しいです。
コロナ禍で出不精になってしまったという方も是非、温かみのある空間の中でご自身を解放しにいらしてください。
特別展のご案内
アイヌの美しき手仕事
2020年9月15日(火)~11月23日(月・祝)
柳宗悦は、アイヌ民族の力強い造形美に早くから着目し、1941年には美術館で最初のアイヌ工藝展となる「アイヌ工藝文化展」を当館にて開催しています。本展では、館蔵の優品に加え、柳とともにアイヌの手仕事を高く評価した染色家・芹沢銈介の蒐集品を併せ展覧し、アイヌ民族の豊かな想像力と深い造形力を紹介します。
出品協力:静岡市立芹沢銈介美術館
主催:日本民藝館、日本経済新聞社
編集後記
個人的に前々から気になっていたものの、なかなか足を運ぶ機会がなく、今回初めて日本民藝館を訪れました。学芸員の方のお話を拝聴しながら、どこか懐かしく優しい雰囲気の館内をめぐり、多くの民藝品の数々に目を奪われてしまいました。
民藝品とは「一般の民衆が日々の生活に必要とする品」という意味があるそうで、ただ作品自体のすばらしさを見て感じているだけでも楽しいのですが、せっかくなので「もしも自分ならば、どんな料理をこの器に載せるだろう」と想像をめぐらせたりもしてみました。何度も訪れる人が多いというのも納得の、充実した時間を過ごすことができました。
また、施設内にあるミュージアムショップでは、全国から集められた新作工芸品を買うことも出来ます。毎年開催される日本民藝館展での入選作を中心に選ばれ、いずれも丈夫で使いやすく暮らしに役立つ品々が並んでいます。日本の民藝のこれからを応援する気持ちも添えて、ミュージアムショップのアイテムをお土産にするのもオススメです。
日本民藝館 外観
日本民藝館
<アクセス>
京王井の頭線「駒場東大前駅」西口から徒歩7分、小田急線「東北沢駅」東口から徒歩15分
・バスをご利用の場合
※バスは本数が少ないためご利用の際はご注意ください。
・渋谷駅西口バス乗り場より
東急バス 渋55系統 代々木上原・東北沢経由幡ヶ谷折返所行き 「代々木上原」下車徒歩8分
所在地: 〒153-0041 東京都目黒区駒場4丁目3番33号
開館時間:10時~17時(最終入館は16時30分まで)
休館日: 毎週月曜日(但し祝日の場合は開館し翌日休館)
年末年始、陳列替え等に伴う臨時休館有り(ホームページの開館日カレンダーをご確認ください)
連絡先: Tel. 03-3467-4527 Fax. 03-3467-4537
WEBサイト: https://www.mingeikan.or.jp/