亜紀書房
人生の中で、どうしたらいいのか答えが出せない袋小路に迷い込んでしまったとき、たった一冊の本が、頭の中で固まっていた氷の壁を溶かし、先へ進むための強い指針となってくれることがあります。
私自身が、何度もそういう経験があるのですが、まさにこの本は、世の中に幾多ある良質な本の中から、著者の方が見つけた「言葉の羅針盤」ともいうべき言葉たちを集めている本です。
著者の若松英輔さんという方は、批評家・随筆家として数々の著作がありますが、この「言葉の羅針盤」は、中でも、普段あまり本を読まない人にも、あらゆる種類の本を手に取る読書家の方にも、どちらにも受け入れられる一冊ではないかなと思っています。ご自身の人生の様々な場面に、光り輝くような「言葉」との出会いがあったことが、読みやすく、美しい文体で記されています。つらく、悲しい出来事を受け入れられないとき、自分のまわりすべてが闇に囲まれているような気持ちになるときこそ、ほんとうに自分にとって必要な言葉が光り、むしろかえって闇が深いときだからこそ、見つけやすくなるのだ、ということを教えてくれます。
若松先生は、心の深い部分で本を読む人だという印象があります。そして、それを更に受け取りやすい形で多くの人に顕わすという才能に長けた方だとも思います。
例えるならば、それぞれの作品の根底に流れる、見えない熱い情熱や静かな慈愛に満ちた愛を汲み取り、美しい器に、彩り豊かに盛り付けをしてくれるような感じでしょうか。 私自身、若松先生の本を読んだあとには、魂に訴えかけてくる特別な授業を受けたかのような気がします。また、もっともっとたくさんの本が読みたいという気持ちに繋がり、そして、良質な本を知るきっかけとなることが多いのです。
もし、今苦しいことに立ち向かっていると思うのなら、不安なことが多いと思うのなら、ぜひこの本をおすすめします。
本というものは開かなければそこにある「ただの物」ですが、こちらが心を開き、向かい合うことで、時には自分の先生にもなり、道無き道を共に手を取り歩んでくれる良き友達ともなってくれるものだと思います。 私が多くの書籍を手に取っているのも、善き方向へと導いてくれる一筋の流星のようなコトバを、心の奥でいつも求めているせいなのかもしれません。
(文・野原こみち)