星を撒いた街/上林暁傑作小説集
山本善行 撰
夏葉社刊
みなさんは、電子書籍は利用されますか。スマートフォンや、タブレットの普及に伴い、電子書籍は手軽に楽しめる読書ツールとして浸透してきています。本は、持ち運ぶのにも重いし、たくさん読めば読むほど、家に本の山が積み上がってしまうという、「場所を侵食してしまうもの」でもあります。そう考えると、スマホやタブレットさえあれば、それだけで何千冊と本が選び放題。文字が小さければ、簡単に拡大することもできます。文明の利器の恩恵にあずかると、便利なものだなと、認めざるを得ません。
しかしながら、電子書籍があるからもう本は買わなくていいよね、と言われたとしたら、「いやいや、それとこれとは話が別であって…」とたぶん言うでしょう。
やはり、電子機器の硬質な手触りを感じながらでは、読書の楽しみが半減してしまう、という気持ちがあるのです。(あくまで主観ですが)
とくに、この今回紹介する本を出版している夏葉社の書籍は、装丁がものすごくよいのです。
シンプルなデザインに、エンボス箔押しのタイトル。背の部分は、質感の良い布地。その布地と紙の境目の触り心地。昭和の時代はよくあったかもしれないこのような装丁。
昨今の新刊本の中では、確実に少数派でしょう。
そういった手の感触を感じつつ、紙とインクのほのかな匂いをかぎながら、良質な美しい文章を読むということが、読書の醍醐味なのかもしれないなあ、とも思うのです。
そういうわけで、夏葉社さんの本、すべて集めたいと思うほど、大好きなのです。
胸に抱いて離したくないほど好きな夏葉社の書籍、ひとつご紹介いたします。
上林暁(かんばやし あかつき)は、戦後期を代表する私小説作家です。自分の身近な家族や友人たちを、叙情的で美しい文章で描き、評価をうけました。この傑作小説集には7つの作品が掲載されていますが、私が特に好きなのは、「晩春日記」と「諷詠詩人」です。「晩春日記」は、長い間病で入院していた奥さんが帰宅し、また生活をともにするようになってからの話。淡々と日々の様子をつづりながらも、所々にどうしようもない切なさが滲み出ていて、胸が苦しくなります。「諷詠詩人」は、友人とともに亡くなった共通の知人について語り合う話です。作者が知らないエピソードを他の誰かから教えられ、その時の様子を思い浮かべたりするのですが、この知人がまた破天荒で面白い。でも、弔いの話でもあるので、笑いながら泣いているような不思議な気持ちになります。
(文・野原こみち)