私の本棚からvol.16

コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ


コロナの時代の僕ら/パオロ・ジョルダーノ
早川書房

 

 

 まだ中学生の頃だったか、社会科の教科書で、トイレットペーパーを買い漁る人たちの様子を移した写真が掲載されていました。おそらく70年代に起きたオイルショックの時の混乱を写したものだったのですが、それに写る人々の必死の形相を見ながら友達と一緒に笑っていた記憶があります。まだ、頭の中は、部活と音楽と漫画が大半を占めており、自分の家で消費されるトイレットペーパーの量がどれくらいかも、周囲の大人が自分をどれだけ守ってくれているかも理解できていない頃の話です。
 そして年月が経ち、そんな私も中年と呼ばれる世代になる頃に、あの教科書で見たような事態を二度経験することになりました。
 一度目は東日本大地震が起きた後に。
 二度目は新型コロナウイルスの世界的な流行の最中に。
 自分の家庭を持つ身となり、生活必需品が手に入らなくなることの重大さに直面して初めて、あのオイルショックの写真に写っていた人たちの必死さを身を持って知った気がします。
 
 二〇一九年年末に中国武漢市で発生し、世界的に大流行した新型コロナウイルス感染症は、早一年が経とうとしている現在も、未だに世界中の多くの国で猛威を振るっています。ここ日本でも夏の間に少し鎮静化したように思われましたが、季節が冬に向かうにつれて、さらなる流行の兆しが見えています。
 コロナ前、コロナ後と言われるほど、私たちの生活も一変しました。街を行けば、今や九割以上の人がマスクをつけ、公共の施設の中では今まで以上に会話を控えることがルール。ソーシャルディスタンス、三密という新しい言葉の意味も、老若男女幅広い世代に当たり前のように認知されています。
 社会的なルールや規範、人々の暮らしぶりがたった一年の短い間にこれほど変わったということは、かつてないことなのではないかと思います。日々の暮らしの変化は時が経てばいつの間にか慣れてしまい、コロナ前の日常のことは忘れ去ってしまうのかも知れません。しかし、この生々しい変化の渦中に経験したことやリアルな実感は、記憶に留めておきたいと思っています。

 コロナの時代の僕らは、イタリアの作家である著者が、日刊紙に寄稿した記事に日々の記録を加えエッセイ集としてまとめた一冊。自分ではない他の誰かの視点で世界を知ることで、何か大切なものに気がつくこともあると思います。
(文・野原こみち)

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