先日、久しぶりに磯釣りに出かけた。子供の頃から好きな釣りで、本命はメジナ。
この時期のグレは脂が乗り、とても美味しい。
にもかかわらず、魚屋の店先に並ぶことはほとんどない。
メジナは岩礁帯の際に生息し、網での漁獲が難しい魚だからだ。
つまり、食べたければ自分で釣るしかない。
釣り方はフカセ釣り。コマセ(撒き餌)を打ち、
水中に広がる煙幕に餌のついた針を自然に馴染ませていく釣りである。
言葉にすれば簡単だが、実際はそうはいかない。
潮は刻一刻と変わり、表層と中層、底潮では流れの向きも速さも違う。
その中で、軽い仕掛けを不自然さなく流していくのは、なかなかに難しい。
だが、その難しさこそが、この釣りの核にある。
撒き餌とハリがうまく同調し、狙ったラインを流れ切った瞬間、ウキが勢いよく水中に消えていく。
その一瞬、心が跳ねる。頭で組み立てた仮説と、自然の流れと、
魚の意思が重なった証拠だからだ。
難しいから、面白いのである。
ただし、この釣りは難しいだけではない。正直に言えば、かなり“面倒臭い”。
必要な道具は多く、釣りに行く前から準備が大仕事だ。
仕掛けを作り、撒き餌を練り、磯に上がれば足場を整え、何度も何度も打ち返す。
釣りが終わっても終わりではない。
竿やタモ網、バッカンにこびりついた撒き餌を水で洗い流し、
クーラーボックスも丸洗いする。
帰宅後、魚を食べるための準備もまた一苦労だ。
鱗は飛び散り、鰭の棘は容赦なく指に刺さる。
現代はコスパやタイパが、まるで人生そのものの指標であるかのように語られる時代だ。
だが、それは仕事の話として考えればよい。
少なくとも、遊びや趣味にまで当てはめる必要はない。
難しく、面倒臭さに溢れたこの釣りは、それらを軽々と凌駕するほど面白い。
本物の面白さとは、往々にして効率の対局にある。
美味しいグレを食べるためには、この難しさと面倒臭さを乗り越えなければならない。
しかし、その過程すべてを含めて考えれば、これ以上にタイパもコスパも良い体験は、
そう多くないのではないかと思う。
手間の先にしか辿り着けない味が、確かにそこにあるのだから。
writer ライター
岡野伸行
西中国山地の麓で育ち、魚釣りが日常にある幼少期を過ごす。
大学では水産学を学び、魚が日常にある生活を送る。
大学卒業後は釣り番組の制作会社で、釣り人が日常にいる日々を過ごす。
2023年に独立し、H.I.T. FILMSの屋号で活動開始。
商業的ではなく作家性のある釣りの映像作品を制作。
釣りを人生で一周し、現在は冒険的なフライフィッシングを好み、
釣り旅のことばかりを考える毎日を送る。
H.I.T. FILMS
https:/hitifilms.jp







