4Kが見せる未来 ーテレビから広がる映像文化のゆくえ

岡野伸行|2025年10月6日

2010年代、日本は「次世代映像」の旗を掲げて4K、さらには8Kの放送を推進した。
家庭で映画のような映像を楽しむ時代が来る──そんな夢を抱いて、メーカーも放送局も新たな規格へと歩みを進めた。
だがその理想は、必ずしも順調には育たなかった。

かつてのテレビは、国民の共有する窓だった。
バブルの余韻が残る頃、BSの多チャンネル化が進み、音楽・スポーツ・紀行といった専門チャンネルが次々と誕生した。
映像の多様化は「豊かな時代の証」として歓迎され、現場では新しい未来を信じて汗を流す人たちがいた。
けれども、不況の波が押し寄せ、広告費は細り、チャンネルは通販番組で埋められていった。
夢に賭けた人々の努力を思うと、胸の奥に切なさが残る。

そして迎えた4K時代。
だがスタジオのバラエティを鮮明に映すことに力が注がれ、自然やドキュメンタリーといった本来の映像美は、主役になりきれなかった。
「せっかくの技術を、私たちは本当に活かしているのだろうか」――そう問いかけたくなる瞬間がある。

理由は単純だ。
テレビの買い替えを重ねるほどの余裕はなく、制作現場も設備投資に苦しんだ。
やっとHDに整えた頃に4Kがやってきたのだから、慎重にもなる。
やがて「HD素材を4Kに引き伸ばす」映像が増え、4Kの名だけが独り歩きした。

一方で、時代は静かに、しかし驚くべきスピード感でYouTubeやVimeoへと流れた。
高価な放送設備がなくても、誰もが4Kで作品を発信できる。
そして今、家庭の大画面テレビにYouTubeボタンが並ぶ時代となり、視聴者は自らの選択で映像を楽しむようになった。
もはや「放送を受け取る人」ではなく、「映像を選ぶ人」になったのだ。

興味深いのは、テレビ放送が国内で完結するのに対し、ネットの映像は瞬時に世界へ届くことだ。
私の運営するチャンネルでも、5〜10%の視聴者が海外からである。
かつて番組制作を通じて夢見た“世界の釣り”を、今は自分の手で発信できる時代になった。

テレビの4Kは帯域に限界があり、編集室で見た美しさがそのまま電波には乗らない。
だがネット配信では、より高いビットレートでの再生が可能になり、解像感は明らかに上回る。
圧縮技術は日々進化し、近い将来、映像制作者が本来の色と光をそのまま届けられるようになるだろう。

私が使う機材は、放送用カメラの1/10の価格である。
それでもネット上では十分に“作品”として通用する。
かつてテレビで鍛えられた制作者たちがネットへと活躍の場を移しているのも、そんな理由からだ。
技術と表現の距離が、かつてないほど近づいた。

4Kは、もはやテレビ放送のための技術ではない。
自然の光、海のきらめき、人の表情──そうした瞬間を高精細に記録し、世界のどこにでも届けられる手段である。
それは「放送」から「表現」への転換であり、映像文化の成熟の証でもある。

映像が美しいということは、単に解像度が高いという“数値”ではない。
そこに息づく時間、空気、そして撮る人の想いが見えることだ。
4Kが本当に輝くのは、そうした“人の記憶”を映し出すときだと、私は信じている。

writer ライター

岡野伸行

岡野伸行

1977年広島県生まれ。さかな検定2級
西中国山地の麓で育ち、魚釣りが日常にある幼少期を過ごす。
大学では水産学を学び、魚が日常にある生活を送る。
大学卒業後は釣り番組の制作会社で、釣り人が日常にいる日々を過ごす。
2023年に独立し、H.I.T. FILMSの屋号で活動開始。
商業的ではなく作家性のある釣りの映像作品を制作。
釣りを人生で一周し、現在は冒険的なフライフィッシングを好み、
釣り旅のことばかりを考える毎日を送る。
H.I.T. FILMS
https:/hitifilms.jp
writer ライター
岡野伸行
1977年広島県生まれ。さかな検定2級
西中国山地の麓で育ち、魚釣りが日常にある幼少期を過ごす。
大学では水産学を学び、魚が日常にある生活を送る。
大学卒業後は釣り番組の制作会社で、釣り人が日常にいる日々を過ごす。
2023年に独立し、H.I.T. FILMSの屋号で活動開始。
商業的ではなく作家性のある釣りの映像作品を制作。
釣りを人生で一周し、現在は冒険的なフライフィッシングを好み、
釣り旅のことばかりを考える毎日を送る。
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