映像制作の現場において、クラウドファンディングは単なる資金調達の手段にとどまらず、制作者と視聴者を直接結びつける「共創の場」として機能しないかと現在二つのチャレンジをしている。
一つは「クリスマス島(キリバス共和国)」を舞台とした長編ドキュメンタリー。もう一つは現在進行中の「清原裕之名人」を追った高津川のアユ釣り作品である。
かつて日本経済が元気だった時代、テレビには大きなスポンサーがつき、私たちは海外の釣りを、番組を通じて目にすることができた。その映像体験は単なる娯楽ではなく、釣り人にとって未知の世界観と出会う扉だった。あの頃の映像があったからこそ、現在のメイン世代の釣り人たちは世界を知り、広い視野を持つことができたのだ。しかし今や経済は停滞し、テレビはスポンサーを失い、さらに若い世代のテレビ離れが進む。YouTubeは活況を呈しているが、多くは個人クリエイターの発信であり、かつてテレビが見せてくれたような「作り込まれた作品」と呼べるものは少ない。だからこそ、私自身がかつて感動したあの世界観を、映像として再び届けたいという思いが強くある。
そうした願いを背負って挑むのがクリスマス島の企画だ。ここは世界でも屈指のボーンフィッシュ・フラットとして知られるが、近年は気候変動や観光の影響もあり、かつての姿を知る人々の証言を残すことが急務とされている。私がこの島に惹かれる理由は単に釣りの聖地であるという以上に、島に暮らす人々の生活と自然環境が密接に結びついている点にある。釣りは経済であり文化であり、また島の未来そのものに関わっている。ドキュメンタリーは、若き釣り人・野中豪の目を通して「楽園」と呼ばれる場所で何を感じるかを描き出そうとするものだ。
一方で現在進行中のプロジェクトが、島根県高津川でのアユ友釣り名人・清原裕之をテーマにしたドキュメンタリーである。清原氏は「泳がせ釣り」と呼ばれる高度な技法で知られ、ただ釣果を競うだけでなく川そのものを読み解く力を持つ稀有な釣り人だ。今回の撮影ではテクニックの解説に重きを置くのではなく、むしろその人間像や釣りへの哲学を浮かび上がらせることを目指している。川辺に立つ姿、友釣り独特の緊張感、そして時折見せる穏やかな笑顔。これらは釣り人であれ、そうでない人であれ、誰もが共鳴できる「生き方」の物語として受け止められるはずだ。
この清原名人プロジェクトもクラファンを通じて支援を募っている。特徴的なのは、映像を単なる記録物としてではなく「支援者と共に作り上げる作品」と位置づけている点だ。支援者は完成後の特典映像や限定コンテンツを手にできるだけでなく、作品の一部として名前が刻まれる。そのことは、釣りという個人的な趣味の枠を超え、文化的資産を共有する営みへと発展している証といえるだろう。
二つのクラファンを並べてみると、共通して見えてくるのは「釣り」という行為を超えた物語性だ。クリスマス島ではチャレンジする喜びを、清原名人では個人の生き様を描く。いずれも支援者は単なる観客ではなく、物語の制作スタッフとなる。資金の支援という行為を通じて、映像の中に自らの思いを投影し、完成を共に待ち望む。そのプロセスこそがクラファンの最大の価値である。
私は今後も年に数本、クラファンを通じて釣り映像をつくり続けたいと考えている。独りよがりになりがちなフリーランスでの動画制作にあって、支援してくれる人がいるというのは需要の証でもある。支援を集めることは容易ではない。しかし支援者がいるからこそ、制作者は孤独な作業を超えた確かなつながりを感じられる。そしてそのつながりが、映像に血を通わせ、長く生き続ける作品へと育っていく。
あの頃テレビが私に見せてくれた素晴らしい世界観を、今度は私自身がクラファンを通して次の世代へ伝えていきたい。
現在進行中のクラウドファンディングプロジェクト
<最後の報知鮎釣り名人・清原裕之氏の動画制作>
CAMPFIREサイト
<ドキュメンタリー映像制作プロジェクト Enduring Reverie 〜憧れの継続>
株式会社つり人社クラウドファンディングサイト
writer ライター
岡野伸行
西中国山地の麓で育ち、魚釣りが日常にある幼少期を過ごす。
大学では水産学を学び、魚が日常にある生活を送る。
大学卒業後は釣り番組の制作会社で、釣り人が日常にいる日々を過ごす。
2023年に独立し、H.I.T. FILMSの屋号で活動開始。
商業的ではなく作家性のある釣りの映像作品を制作。
釣りを人生で一周し、現在は冒険的なフライフィッシングを好み、
釣り旅のことばかりを考える毎日を送る。
H.I.T. FILMS
https:/hitifilms.jp







