初めての試みとして、現在クラウドファンディングにチャレンジしている。
これまで業務委託の仕事を中心に映像を作ってきた私にとって、この挑戦は大きな転換点でもある。
正直に言えば最初は強い抵抗があった。
資金をお願いするという行為そのものに、どこか後ろめたさを感じていたからだ。
だが振り返れば、自分もこれまでに何度か他者のクラウドファンディングを支援してきた。
そのときの動機はただ一つ、「応援したい」という気持ちだった。
リターンや見返りよりも、その人の活動が続いてほしいという願いが先に立っていた。
それでも、YouTubeチャンネルでクラウドファンディングを使うのは難しいと言われていた。
多くの場合何処の馬の骨かもわからない人にそもそも支援はしにくいからだ。
だが、私のチャンネルの本質はそこにはない。
私は自分が目立つことよりも、被写体となる人やテーマを中心に据えてきた。
釣り人であり、職人であり、そこに生きる人々の物語を記録し、映像として残す。
むしろそれこそが、ファンの皆さんに喜ばれる形なのではないかと気づいた。
自分を応援してほしいのではなく、「あの人を映してほしい」
「あの物語を残してほしい」という思いに応える。
そのためのクラウドファンディングであれば、自然と支持が集まるのではないか。
そう考え方を切り替えられたことが大きかった。
これまで私は業務委託の映像制作を中心に生きてきた。
必要としてくれる人がいる限り、その期待に応えるのが私の役割だ。
しかしクラウドファンディングの場合、その依頼主が企業ではなく、
ファン一人ひとりになる。かつては社内で稟議を通し、
企画を上層部に承認してもらうことで作品が世に出ていた。
それが今では「企画に賛同してくれるファン」がスポンサーになってくれる。
仕組みが変わっただけで、本質は同じだと理解できたとき、
クラウドファンディングはむしろ時代に合った方法だと感じられるようになった。
もちろん、クラウドファンディングだけで全てを回そうとは思っていない。
現実として、事業として十分に自走しているわけではなく、不足分をお願いしている面もある。
ただし、仮に将来すべてを自分の資金だけで賄えるようになったとしても、
それはそれで独りよがりに陥る不安がある。
作品を一緒に作る過程をファンと共有できることにこそ意味があると信じているからだ。
私は現在48歳。残りの制作者人生を考えると、本当にやりたいことに取り組める時間はそう長くない。
だからこそ年に数度はクラウドファンディングを通じて、
皆さんと一緒に盛り上がる機会をつくりたいと思う。
単なる資金調達の手段ではなく、一緒に祭りを楽しむ感覚で。
そしてリターンとして上映会を開くことも計画している。
独立したときからの夢であり、釣りファン同士をつなぎたいという願いでもある。
同じスクリーンを見つめながら同じ映像を体験し、語り合う。
その場にしか生まれない空気を共有できることこそ、
クラウドファンディングの先にある本当の価値だと思う。
なによりクラウドファンディングの成功とは、目標金額への到達ではなく、
サポートしてくれた人の思いを形にできたときだと思う。
そして現在、清原裕之名人をテーマにしたクラウドファンディングに挑戦している。
中学・高校時代から共に竿を並べた友人であり、
鮎釣り文化を象徴する存在でもある彼の姿を映像として残すことは、
私自身にとっても長年の願いだった。
この挑戦が、クラウドファンディングを通じて形になりつつあることに、
大きな手応えと喜びを感じている。
writer ライター

岡野伸行
西中国山地の麓で育ち、魚釣りが日常にある幼少期を過ごす。
大学では水産学を学び、魚が日常にある生活を送る。
大学卒業後は釣り番組の制作会社で、釣り人が日常にいる日々を過ごす。
2023年に独立し、H.I.T. FILMSの屋号で活動開始。
商業的ではなく作家性のある釣りの映像作品を制作。
釣りを人生で一周し、現在は冒険的なフライフィッシングを好み、
釣り旅のことばかりを考える毎日を送る。
H.I.T. FILMS
https:/hitifilms.jp