この夏、私たちはまた一つ、大切な選択の機会を迎えます。参議院選挙です。
日々の暮らしのなかで、政治が何をしているのか、誰がどんな発言をしているのか、意識しないことも多いかもしれません。けれども一票を託すという行為は、ほんの少し先の「明日」ではなく、ずっと先の「未来」に責任を持つ行動であると、私は思います。
「多様性(ダイバーシティ)」という言葉が広まりはじめて久しくなります。多様性を尊重することは、排除や差別を生まない社会をつくるうえで大切な理念であり、否定されるべきものではありません。しかし近年、グローバリズムと多様性という言葉が、まるで“普遍的な正義”のように使われるたびに、私はある種の「怖さ」を感じてしまうのです。
それは、地方で育ち都会で暮らし、両面からみて、それぞれに根づく言葉や習慣、人々の生き方の中に「かけがえのない特異性」を感じるようになってからです。画一的な「世界標準」が進むにつれ、土着のものが失われていく・・・。多様性を謳いながら、結果として“均質な価値観”に塗りつぶされていく現実。それは皮肉にも、多様性の逆説のように思えてなりません。
もちろん、異なる価値観を認め合うことは、社会を豊かにするうえで不可欠です。ただし、それが「無理にでもわかり合うべきだ」という押しつけになってしまうと、むしろ摩擦や対立を生むことになるのではないでしょうか。価値観には折り合えるものと、どうしても「合わない」ものがあります。SNSなどで目にする罵り合いは、その典型のように感じられます。本来、どちらかが一方的に屈服するべきものではなく、ときに“能動的に距離を取る”という選択も、成熟した社会の知恵ではないかと思います。
私たちはまもなく、戦後80年という節目を迎えます。戦争を体験した世代は、すでに私たちの祖父母であり、もはや「遠い昔」の話として語られるようになりました。それでもあの時代は、ほんの二世代前の現実であり、政治や価値観の選択の誤りが、いかに人々の生活や命を奪ったかという記憶は、未来へと引き継がれていかねばなりません。
そして今も、世界ではいくつもの戦争が続いています。けれど、ただ遠い国の出来事に思いを馳せるだけではなく、目の前の人とどのように向き合うか──その姿勢が、やがて世界の在り方を変えていくと私は信じています。異なる価値観に耳を傾けること。身近な人の思いに敬意を払うこと。そして、ときにそっと距離をとりながら、互いを否定しない関係を保つこと。それらの積み重ねが、争いの芽を摘み取り、平和への確かな一歩となるはずです。
私たちの一票が、未来にどんな風景をもたらすのか。それは誰にも正確にはわかりません。けれども「目先の安心」ばかりを追うのではなく、もう少し長い視野で、「この国のかたち」を考えるための一日になることを、私は願っています。
あなたの一票が、次の時代の礎になりますように。
writer ライター

岡野伸行
西中国山地の麓で育ち、魚釣りが日常にある幼少期を過ごす。
大学では水産学を学び、魚が日常にある生活を送る。
大学卒業後は釣り番組の制作会社で、釣り人が日常にいる日々を過ごす。
2023年に独立し、H.I.T. FILMSの屋号で活動開始。
商業的ではなく作家性のある釣りの映像作品を制作。
釣りを人生で一周し、現在は冒険的なフライフィッシングを好み、
釣り旅のことばかりを考える毎日を送る。
H.I.T. FILMS
https:/hitifilms.jp