今日、2025年6月22日。
ちょうど100年前、あなたが芦ノ湖にブラックバスを放流されたその日と同じ日、私はその湖畔に立っておりました。
今日は風が強い日で、釣りを楽しむ人の姿は少なかったです。
それでも多くの観光客の笑い声が響く中、
この日が何を意味するのかを知っている人は、ほとんどいないように感じました。
ですが、私はどうしても今日この場所に来たかったのです。
なぜなら、私の人生における「釣り」と「自然」との関係の始まりの部分の多くが、
まさにあなたの行動にあったからです。
1925年、あなたはアメリカからラージマウスバスを輸入し、日本に持ち帰られました。
運搬技術も未発達な時代、長い航海を経て命をつないだ魚たちを、
あなたは芦ノ湖に放流されたと聞いています。
その背景には、レジャーとしての釣り文化の普及、
そして当時不足していた淡水魚の供給源としての「食用魚」という側面にも注目されていたこと、私は知っています。
すべては、日本の未来を思ってのことだったのでしょう。
しかし、今やブラックバスは「外来種」として槍玉にあげられる存在になってしまいました。
生態系への影響が語られる一方で、人間が行ってきた護岸工事や河川改修のほうが、
在来種に与えた影響は明らかに大きいという事実は、なぜか見過ごされがちです。
私は釣り人として断言できます。
自然の変化に最も敏感に気づくのは、教室の中の専門家ではなく、
川や湖に立ち続けている釣り人です。
環境問題とは、学校で教わる知識ではなく、自然の中で感じ取るべきもの。
私はバス以外にも多くの釣りを楽しみ、ネイティブを守ることの意味も強く理解しているつもりです。
釣り糸を通して生き物の強さも、儚さも知ることができました。
今日は芦ノ湖で気の合う釣り人と、たまたま行き合った釣り人と話を交わしました。
それぞれの幼少期の話から釣り業界の話まで─そんな何気ないやりとりの中に、自然との対話があります。
そしてそれをもたらしてくれたのは、100年前に放たれたブラックバスと、あなたの存在です。
小学校5年生の頃、私は広島のリザーバーで初めてバスを釣りました。
その瞬間の手応えと鼓動の高まりは、今でも忘れられません。
その一尾が、私にもたらしてくれたのは“自身”でした。
ブラックバスの善悪を語ることは、今もこれからも簡単ではないでしょう。
けれど、もしこの魚の存在が、環境との関わりについて立ち止まり、
考えるきっかけとなるのだとしたら──それはあなたの功績が、今も静かに息づいているということだと思います。
拝啓の言葉を添えて、あらためて、感謝を申し上げます。
敬具
令和七年六月二十二日
芦ノ湖湖畔にて
writer ライター

岡野伸行
西中国山地の麓で育ち、魚釣りが日常にある幼少期を過ごす。
大学では水産学を学び、魚が日常にある生活を送る。
大学卒業後は釣り番組の制作会社で、釣り人が日常にいる日々を過ごす。
2023年に独立し、H.I.T. FILMSの屋号で活動開始。
商業的ではなく作家性のある釣りの映像作品を制作。
釣りを人生で一周し、現在は冒険的なフライフィッシングを好み、
釣り旅のことばかりを考える毎日を送る。
H.I.T. FILMS
https:/hitifilms.jp