カッコウが鳴くあの一瞬/残雪

こみちの本棚 17冊目

長らくおやすみをしていましたが、「こみちの本棚」WEB限定のこちらでは、文庫本を中心にまたご紹介していこうと思います。

しばらく前から、まわりの読書好きの方たちからよくアジアの作家の本を薦められました。そういえば私は外国の文学というとヨーロッパやアメリカ、南米などを思い浮かべて、距離的に日本のご近所であるアジア圏の現代文学にはあまり触れていない。このタイミングで矢鱈とアジアの作家を薦められるのも何かの縁だろう、と、とりあえずはじめに手に取ったのがこの本でした。

残雪(ツァンシュエ)は中国の作家です。
しかしその物語の中に書かれている風景は、中国というよりも、もっとどこか別の、世界中のみんなが知っているけど、どこにもない場所のように思えます。解説で訳者の方もこう書いています。

ー彼女の小説は結局のところ、他のどの作家の小説にも似ていないが、とりわけその初期の小説は、わたしたちのそれぞれの夜の傑作ー夢ーに奇妙に似ている。ー

夢の中で、影のようになんども出てくる曖昧なモチーフは、意識下に眠らせてある個人的に恐怖を呼び起こすものだったり、深層心理に知らずに引っかかったものなのかもしれません。夢は見ていても、なぜそのストーリーを自分の頭が描いたのか、完全にわかっているという人は少ないと思います。怖い夢も、幸せな夢も、ただ、見る。極めて受容的な状態におかれているのに、確かに自分の絶対的な所有物であるところの身体が起こしている現象。
他人の夢を代わりに見ることはできないけれど、他の人と夢の話をすると、なんとなく似通ったところもなくはない。
唐突に登場人物が変わったり、わけのわからない場面転換が起こるのも、夢の中ではありがちなこと。
残雪の小説も、夢のような趣にあふれ、夢を見ているようにときに恍惚とした風景が浮かびます。
いずれ現実の中で不可思議な風景に立ち会うような機会が訪れたなら、わたしは残雪の小説の場面をデジャブのように思いだす気がします。

カッコウが鳴くあの一瞬
残雪
近藤直子 訳
白水社

(文:野原こみち)