海・呼吸・古代形象 生命記憶と回想
三木成夫 著
うぶすな書院
ずっと本を読み続ける生活をしていると、ときどき、本に助けられることがあります。
困った時や迷った時、どうしてもわからないことや納得できないことに阻まれたときにそれは起こることが多いです。そのような状況の中で書店に足を運ぶと、なぜか直感的にどうしても読まなければいけないと強く感じる本に引き寄せられることがあります。そしてその本を読むと、まさに今悩んでいたことを乗り越えるためのヒントになるようなことが書かれていたりするんです。
ただの偶然と言われたらそうかもしれないんですが、そこに意味を見出すか否かは、自分の人生では自分自身で決めてもいいんじゃないか、と私は思っています。
似たような話は、私と同じように本を愛する人からも何度か耳にしたことがあります。
つねづね、読書の楽しみは、目前の本の内容に没頭することはもちろんですが、次に何の本を読もうか考える時間にもあると感じています。
読書家の人は、ただ本屋や図書館をうろうろとして、たくさんの本の背表紙を眺めている時間も、とても想像力や記憶力を働かせているはずです。今まで読んだ本を思い出したり、その本の内容に参照された文献で未読のものを思い出したり、読んだ本の著者の方の別の作品を想像したり、また、まったくの知らない作品については、タイトルから物語を想像してみたり・・・など、本棚のあいだを歩いているだけでも、脳がフル回転します。
今回紹介するのは、私にとっていちばんの「引き寄せられた本」です。これは数年前に、仕事や人間関係で色々なことがあり、行き詰まって自分の生き方などを真剣に見つめ直していたときに、パンクしそうな頭を抱えながら出かけた、旅行先の本屋さんで出会った一冊。解剖学者である著者の作品は、「内蔵とこころ」などが有名で、生物学に明るいわけではない私のような素人にも読みやすいのですが、こちらはかなり専門的に踏み込んだ内容。おそらく医学を志す方々が手にとるような本なのではないかと思います。しかし、不思議なことにそのときの私は、どうしてもこの本を読まなければいけない、という気持ちになり、夢中で一気に読み切ってしまいました。
今もう一度読み返しても、この非常に専門的な一冊を、なぜ一心不乱に読んだのか不思議です。壮大で、神秘的なことに満ちている世界の中、今わたしのからだの中でさえも、精密に形成された神秘の機能で満ちているのだ、ということに気付かされ、その当時、深刻に悩んでいたことが些細なことに思えて、前向きに進めるきっかけになりました。わたしのなかでは、それは、劇的な読書体験でした。
古生物学、進化論などに興味がある人以外には、この本自体がお勧めできるわけではないのですが、読書をつづけていると忘れられないような自分だけの一冊に巡り合うことがあると思います。
そんな特別な瞬間の訪れを信じて、様々な本に出会い続けてみてください。
(文・野原こみち)